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地域が抱えている問題を、ともに解決するために – 地域の課題解決に取り組む人や企業、行政に、学生たちの視点が役立つことを期待しています。 –

明治大学 経営学部 公共経営学科 教授 藤江 昌嗣

地域が抱えている問題を、ともに解決するために

連携テーマ
北海道北見市
地域中核企業の支援

Summary
● 株式会社 北見ハッカ通商と藤江ゼミの学生が3年がかりで製品を開発。
● かつて世界の70%の生産量を誇った北見ハッカの継承と地域の活性化がテーマ。
● 今後も、地域の資産を活かして活性化を図る人や企業、行政と連携を強めていきたい

ゼミで地域に根ざした企業の取材を展開

 私のゼミでは、毎年夏に学生が、地方で精力的に事業を展開している企業を訪問し、経営者の方に直接お話を聞かせていただくという活動をしています。対象となる企業を、私たちは地域中核企業と呼んでいますが、厳しい経営環境のなかにあっても、地元に根ざして生き抜いてきた経営者の体験談は、学生にとって大きな教育効果があります。当初は、私の研究活動のなかで生まれたつながりをたどって企業を紹介していましたが、あるとき学生から”自分たちで訪問先企業を見つけたい”と提案され、以来、学生が自分たちで企業を選び出し、訪問を依頼して、取材にうかがうスタイルをとるようになりました。「株式会社 北見ハッカ通商」は、そのように学生が興味をもって選んだ企業のうちのひとつで、私のゼミでは4年前から継続して訪問し、お世話になっています。

地域資源の再生・存続というテーマに共感

草取りや収穫を体験した学生は、眺めるだけでなく、具体的に行動できるようになります。「ものづくり」を受け継ぐことの重みを学ぶ場として、地域はまさに道場と言えるでしょう。「地域中核企業は経営課題が地域の活性化と直結しているケースが多い」と語る藤江教授。
草取りや収穫を体験した学生は、眺めるだけでなく、具体的に行動できるようになります。「ものづくり」を受け継ぐことの重みを学ぶ場として、地域はまさに道場と言えるでしょう。「地域中核企業は経営課題が地域の活性化と直結しているケースが多い」と語る藤江教授。
乾燥を終えたハッカ草を蒸留する工程を学生に説明する大岩様。
乾燥を終えたハッカ草を蒸留する工程を学生に説明する大岩様。
 北見ハッカ通商がある北見地方は、かつて世界の天然ハッカの7割を生産する一大産地でした。しかし、輸入自由化と化学合成ハッカの台頭によって、1983年には北聯の「北見ハッカ工場」が閉鎖されるに至ります。『このままでは北見のハッカの灯が消えてしまう』という危機感から、現社長の永田武彦氏が起業し、ハッカ油の製造を開始しました。北見ハッカ通商は、当時から日本のハッカの継承と北見地方からそれを全国に発信する意義をアピールし続けてきました。その後、本格的な和種ハッカの栽培にも乗り出すなど、地域資源の再生によって、地域の特色をつくり、ひいては地域の活性化をもめざした取り組みを継続している企業でもあります。
 しかしながら、和種ハッカを絶やさず生産し続けるためには、製品化されたものが、一定以上の売上を上げ続けなければなりません。百貨店が催す北海道物産展は、その一つの活路でした。物産展の経済効果はとても大きなものがあり、そこでハッカをアピールするためにも、飴や入浴剤、タブレット菓子やビスケットなどの製品が相次いで開発されたのです。
 最初に北見ハッカ通商を訪問した学生たちはすでに卒業していますが、4年間継続して訪問する中で、こうした経緯を知り、次第にこの「和種ハッカの存続」が、北見ハッカ通商とゼミ生たちとの共通の課題になっていきました。自社の利益だけでなく、地域全体を押し上げていこうと考えている企業に対して、自分たちも何か協力できることはないか。そう学生たちは考え、その結果生まれたのが今回の明大生による『北海道のハッカ屋さんとつくったハッカ飴』です。

「人」「場所」のエピソードが地域ブランドの核となる

 北見ハッカを使った商品づくりは、地域ブランドを育てるという生きたマーケティングの実践としても興味深い取り組みでした。
 学生は地域の歴史や企業の特性について、初めは当然ながら全く知識がありません。しかし、自分たちが選んだ企業ですので、関心は強く、調査に対するモチベーションも高まります。それは訪問時のために用意する質問にも表れます。調査の初期は、誰でも調べれば分かるような項目が多いのですが、次第に、なぜ北見でハッカがつくられるようになったのか? なぜ世界の市場の7割ものシェアを誇った産業が衰退したのか? という問いに構造が変わっていきました。
 一方で、現代は多くの商品が、モノそのものの特性や品質よりも、その背景にあるエピソードや物語によって選ばれる時代です。そして、地域に固有のエピソードや文化を掘り下げようとすれば、行政単位よりももっとエリアを狭めた地域を見つめることや、その地域の人あるいは企業から、じっくりと話を聞きだすことも必要になってきます。このようにブランドにまつわるエピソードを「人」や「場所」から発する点が、地域ブランドと一般的な企業の商品ブランド戦略との相違点だと言えます。ハッカについても、その「生産方法」や「和種ハッカの特徴」、あるいは「地域に根づいた歴史的背景」といった情報は、製品そのものと同じくらい大切でした。自然観の獲得は人間観の変化をもたらします。
 永田社長のご子息で同社専務の永田裕一氏が偶然、本学のガバナンス研究科で学ばれていることも、学生とのコミュニケーションを円滑に進める追い風になってくれました。社員の方々や北見の地域の方々との出会いを含め、社会との連携には、そうしためぐり合わせや縁といった要素が大きく作用し、動き出すことも醍醐味のひとつです。

ものづくりの本質を学んだ学生たち

ハッカ畑での除草作業にも参加。その大変さを実感しました。
ハッカ畑での除草作業にも参加。その大変さを実感しました。
 製品化にあたって、学生は試行錯誤し、アイデアを具体化する上で考えなければならないポイントをいくつも学ぶことができたように思います。また、チームワークの大切さを知る機会としても有効でした。ものづくり企業には人を育てる力があり、特に、今も地方でがんばっている企業には、人を大切にする風土を持つ例が多くあります。今回の『北海道のハッカ屋さんとつくったハッカ飴』は明大マート※1で3月から販売を開始しました。また、6月には新宿タカシマヤの「大学は美味しい! !フェア」※2にも出展が決定しています。製品化の結果がどのように発展するかは未知数です。しかし、既存の製品をいかに売るかというだけのマーケティングでなく、地域の資産を多くの人に知らせるという目標を共有したこと、そして、ものづくりのダンドリから取り組んだ経験は、学生にとって企画をカタチにすることの重さを知る貴重な機会になったと思います。
 学生に素材や場所を提供していただき、製品化の過程を経験させていただいたことに感謝するとともに、学生の発想や着眼点が、企業にとって新しい視点の導入につながることを期待しています。

※1 株式会社明大サポートが運営するショップ。明治大学の各キャンパス、付属校で授業に必要な文具、教材などを販売している。
※2  大学の研究室で生まれた大学ブランド食品や教授と学生たちが開発に携わった大学発のおいしいものを紹介するフェア。2014年で7回目を数える人気催事。

地域にはまだまだ知られていない財産がある

北見ハッカ通商本社での新製品検討ミーティングの様子。
北見ハッカ通商本社での新製品検討ミーティングの様子。
 周知のとおり、生産コストの低減策として、メーカー各社がアジアに生産拠点を移す流れが止まりません。それにともなって国内、特に地方都市では雇用の悪化が続いています。そんな中、地域に根ざし、地域を活性化しようと努めている企業との連携は今後も大切にしていきたいと思っています。また、いわゆる「6次産業」に代表されるような農業に起点を持つ産業でさまざまな取り組みを行っている人や企業との連携も、まだ萌芽ではあるものの、今後進展させたいテーマです。
 日本の地域社会にはまだまだ知られていない財産が沢山あり、可能性があります。私たち大学の研究者も個別のテーマを追うことにとどまらず、地域全体に視野を広げ、人々がその地域に住んでみたいと思えるような連携を行うことが理想です。それこそが地域のブランディングであり、地域の中にある資源を活かすことで、日本全体が元気になることにもつながると考えています。

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