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なおざりにされている雇用政策と教育政策

 アベノミクスで取組みが足りないことは、雇用や教育など「ひと」に関することです。例えば、現在の正規雇用を過度に保護する仕組みでは、企業にすればちょっと景気が良くなったからといって、正規雇用を増やすのはリスキーです。そこで安全弁として、非正規雇用の求人が増えるのですが、正規雇用と非正規雇用では待遇面の差があまりにも大きく、非正規雇用の人が経済的に安心して家庭を築くことはできません。経済学的にいえば、非正規雇用は失業のリスクが高いので、その分報酬が高いはずです。実際にはそうではないので、労働市場が歪んでいるといえます。また、夫婦共働きとなれば、子育てをサポートする仕組みが未熟な日本では、出産をためらうのは当然です。

 一国の将来を支えるのは人材です。教育ではフィンランドが有名ですが、同国では教育は政府の最重要政策になっています。しかし、日本では違います。近年では、親の経済状況が子どもの教育を左右する状況になっており、格差の連鎖も指摘されています。財源は限られていますが、教育にもっと資源を投入すべきでしょう。

 2014年4月に、社会保障制度の充実を図るとして消費税がアップされましたが、社会保障が本当に充実したと実感している人がいるでしょうか。アベノミクスなどといって、経済政策の華やかに見えるスローガンばかりを打ち出し、抜本的な改革が必要な雇用を含め社会保障政策や教育政策に本気で取組んでこなかったツケは、結局、経済成長の足かせになるでしょう。「女性の活躍」などといっても、労働市場の改革、扶養控除の見直しなど真に必要な政策―時には痛みの伴う政策―を講じないと、労働力人口が減る日本は衰退の道を加速して進むでしょう。

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