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マイナンバーの隠れたリスクに目を向けよう

明治大学 商学部 教授/ビジネス情報倫理研究所所長 村田 潔

どのようなプライバシーをどのように守るべきなのかに関する共通理解が必要

村田 潔 「マイナンバーの利用がプライバシー侵害を引き起こす」といった議論の中では、「どのようなプライバシーをどのように守っていくことによって、どのような社会を築いていくのか」ということが論じられることはめったにありません。英語のprivacyに相当する日本語がないこともあり、また「個人」というものに対する理解が西欧とは異なるため、日本ではプライバシー概念そのものも、またそれを保護することがなぜ社会にとって重要なのかについてもあまりよく理解されていません。多くの人が、プライバシー侵害といっても個人情報の漏洩ぐらいしか思い浮かばず、それによってどのような危害が発生しうるのかもわからず、ただそれに対して漠然と不安を感じているだけなのではないでしょうか。

 では、海外の個人番号制度を日本でも導入すれば良いかというと、事はそれほど単純ではありません。各国の文化や歴史、状況によって価値観が異なるからです。韓国では住民登録番号が広く使われています。現在でも北朝鮮と戦争状態にある彼らにとっては、番号による個人の管理が国の安全対策の一環にもなるでしょう。イギリスは巨費を投じて開発を進めていたバイオメトリクス認証(指紋や眼球の虹彩、声紋などの身体的特徴によって個人を識別する)データを含む国民IDカードシステムを破棄しました。テロなどの重大犯罪の犯人確保にも役立つはずのシステムですが、それよりも国民は自由とプライバシー保護を選んだのです。逆なのがスウェーデンです。transparent society(透明社会)という言葉がありますが、これは個人のプライバシーがない「丸見えの社会」を意味し、多くの場合、非難の言葉として用いられます。「政府は国民を支配しようとして、transparent societyを目指している」といった具合です。ところがスウェーデンでは、市民が「私たちの国はtransparent societyだから素晴らしい」といいます。実際、スウェーデンではさまざまな個人情報がオープンになっており、家庭の窓をカーテンで覆わないなど、生活スタイルも実にオープンです。つまり、価値観に絶対はなく、各国とも自分たちの社会がどうあるべきかを基軸として、制度を構築しているのです。

 日本人にとってプライバシーは外来概念であると考える人が多いですが、日本にも「聞いて聞かぬふりをする」、「見て見ぬふりをする」あるいはウチ・ソトの意識など、個人情報の開示と流れをコントロールするための暗黙の社会規範が存在しています。そうした文化を踏まえたうえで、マイナンバー制度はどうあるべきかを考え、制度を構築・運用していくことが重要です。そのためには、マイナンバー制度によって得られる利便性とリスクを正しく認識するための議論を行い、私たちにとってプライバシーとは何なのか、なぜその保護が社会的に重要なのかに関する共通理解を国民の間に醸成していく必要があり、こうした中で、マイナンバー・システムの機能拡大の是非を判断する基準が培われていくものと考えます。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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