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地方自治体の行政改革は会計制度の改革からはじまる
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いま、すべての自治体にとって、財務状況を健全化させ、行政の効率化を図る行政改革は最重要課題です。この行政改革を成功させるカギは、会計制度の改革にあります。この動きは日本のみならず、世界的な潮流となっています。

他人事ではない自治体の財政破綻

山浦 久司 2007年、北海道夕張市が財政破綻し、財政再生団体になったというニュースを覚えている人は多いことでしょう。地方自治体の財政悪化は以前から指摘されていましたが、財政破綻が現実に起きたのは初めてのことでした。その結果、いま夕張市では負債の完全返済に向けて、市職員の削減、公務員の給料の削減、市民税や水道料金などの値上げ、複数あった市立小学校や中学校の統合など、厳しい対応を余儀なくされています。
 しかし、夕張市のケースは他人事ではありません。80%程度に収まるのが適正とされる経常収支比率が、破綻直前の夕張市は119.9%に達していましたが、現在、それと同程度の比率になっている地方自治体がいくつもあります。
 こうした状況を受けて、どの地方自治体も行政改革に本腰を入れています。しかし、やみくもにリストラや公共サービス料金の値上げを実施すれば、行政改革が成功するというものではありません。では、どうすれば最適で、効率の良い行政改革を進められるのか。そのカギが会計制度にあります。

従来の現金主義・単式簿記では財務状況がつかめない

 会計制度の基礎となるのが、簿記です。簿記というと、現金の出入りを記録する帳面のことと思う人が多いことでしょう。確かに、国や地方自治体の会計制度は明治期以来、現金主義・単式簿記をベースに行われてきました。それは、自治体の運営が議会による予算配分を基盤として、各部署が与えられた予算額に対して、現金支出でどれだけ執行したかを記録するという考え方に沿っていたからです。 根底に、議会が、歳入を、どこの部門のどの事業に予算化して振り分けるかを議論し、実行することが民主主義であるという意識もありました。
 ところが、このような現金主義・単式簿記の会計では、予算をどのように執行したのかという記録は残せますが、それによってどれだけの資産、負債が生じているのかはわかりません。つまり、財政状態が悪化していても、どのような理由でどの程度悪化しているのか、把握することができないのです。
 通常、企業会計では財務諸表を作り、 経営成績等を測定し、自社の資産や負債を把握できるようにします。こうした会計記録をベースに適正な経営計画が立てられ、企業運営が行われます。そこで企業では、正確な財務諸表を作成するために、発生主義・複式簿記を行っています。健全な企業運営を支えるのが会計制度であり、その根幹には正確な財務諸表があり、そのベースとなるのが発生主義・複式簿記なのです。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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