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暴力化する現代社会への歴史学からの提言 ―江戸時代から幕末の社会動向と吉田松陰の位置―

明治大学 情報コミュニケーション研究科長 情報コミュニケーション学部 教授 須田 努

いじめから戦争まで、さまざまな「暴力」が存在する。現代においては、巧妙かつ陰湿に人と社会が暴力化に向かう傾向が強くなっている。この状況は、幕末と似ている。吉田松陰が注目される現在、往時の社会的背景から学ぶ意味は大きい。私たちは増長する暴力を止められるのか。

暴力を歴史から考察する意味

須田努教授 ――先生の研究テーマである「暴力」の問題は、多様な角度からの考察が求められると思います。どのようなアプローチで研究を進めているのでしょうか。

一言でいえば、歴史事象の中で暴力の問題を考察・検証するというものです。このほど、日本近世・近代・朝鮮史などの歴史学者とともに「暴力研究会」を立ち上げました。以前「9.11」の前にも立ち上げた研究グループですが、それから15年近く経ち、「暴力」もいじめや家庭内暴力に見られるように変質しています。現代社会を考えていく上で、人と社会が暴力化するその様相を歴史的に考察していくことは、より良き未来の創造のために必要不可欠なことだと考えています。私は主に江戸時代における暴力の問題を研究対象としています。
江戸時代は平和な時代だったと、よく言われています。そして、明治以降、帝国日本が行った侵略戦争や植民地支配は日本史の中でイレギュラーな出来事と、蓋をしてしまう人もいます。果たして、明治以降、敗戦の1945年までの日本の暴力の発動がイレギュラーだったのか。決してそう簡単にかたづけられるものではありません。その暴力の根源に何があったのか。それを明らかにするためにも、過去の歴史の考察が必要になってきます。

暴力を抑止した統一政権

 ――江戸時代が平和だったとされるのは、つまり社会が暴力化しなかったのは、どうしてなのでしょうか。

徳川幕府という統一政権が生まれたからです。それ以前の戦国時代は統一政権のない領土争いの時代でした。統一政権者が存在しないため、各地域の戦国大名は自己主張し、トラブルの決着を暴力に訴えました。その暴力は武士の世界に限ったことでなく、河川使用や資材獲得の用益権を巡って一般民衆にまで及んでいました。人々も殺し合いをしていたのです。統一政権が生まれた江戸時代以降、幕府はトラブル処理において、「裁判に訴える」ことを厳命しました。江戸時代は訴訟の時代といっていいほど「裁判に訴える」ことが急増したのです。それは暴力を回避する社会の知恵でした。
そのシステムは、元禄から享保年間(18世紀前半)までに確立されました。しかし、18世紀後半から幕藩領主の統治が機能不全に陥り、社会が暴力化し、幕末へと突き進みます。元禄・享保年間、幕藩領主は「仁政」という理念を掲げ、これを維持しました。民・百姓は年貢を負担するが、弱い存在であり、武士が守るという考えです。具体的には、幕藩領主は、災害・飢饉などの時に救済のため、施しなどを実施していました。それが幕藩領主に対する信頼を生んでいたのです。また、強大な武力を一元的に幕藩領主が保有・管理していたことも、統治の安定につながっていました。これを「武威」と言います。しかし19世紀に入ると、飢饉や自然災害などに対応できない、つまり幕藩領主は仁政を維持できなくなり、さらにペリー来航により「武威」が失墜します。これらの要因で、幕藩領主への信頼は極度に低下し、人々は訴訟よりも実力行使を選択し、社会は暴力化していきました。今の日本は、当時と非常に酷似した状況といえます。

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