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急速な円安と日銀の量的金融緩和策の弊害 ―バランスのとれた、柔軟な金融政策運営を―

明治大学 商学部 教授 打込 茂子

追加緩和は必要だったのか、金融政策に違和感

 円安を引き起こした日銀の追加緩和の理由は、原油安による物価上昇の鈍化です。日銀はデフレ脱却のための指標として消費者物価指数(生鮮食品・消費税の影響を除く)で「2%の物価上昇を2015年度にかけて達成する」というインフレ目標を掲げています。原油価格下落は目標達成には望ましくないと捉え、追加緩和に踏み切りました。”円安誘導がねらい”とは国際的配慮から言えませんが、追加緩和で円安になれば輸入品の価格上昇で原油安の影響を相殺できる、というロジックです。
確かにデフレ脱却は望まれますが、原油など輸入品価格の下落は景気に好影響を与え、やや長い目で見れば物価を押し上げる方向(デフレ脱却)に作用するはずです。そうした経済への好影響を減殺してまで2015年度インフレ目標達成にこだわる必要があったのかは疑問です。日本経済にとっては、そのまま原油安の恩恵を享受する方がベターではなかったか、日銀の政策運営に違和感を感じざるを得ません。しかも、11月27日にOPECが減産に合意できなかったことから、原油価格は急落し物価押し下げ圧力が増大しています。今後さらなる円安(⇒輸入物価押し上げ)へ向けて追加緩和策を発動し続けるのかと懸念します。

国債市場の流動性低下や財政規律の緩み心配・・・”出口”一段と難しく

 もう一つ、日銀による国債の大量購入は、別の大きな問題をはらんでいます。追加緩和で長期国債の買い入れ額は年間80兆円と、年度の財政赤字(=新規財源債発行額、40兆円前後)を大きく超える規模になっており、国債金利に低下圧力が大きくかかる一方で国債市場の流動性が低下するなど、市場に与える副作用が指摘されています。財政規律を弱め、財政再建を遅らせる惧れもあります。一部には、日銀の国債大量購入が、実質的な”財政ファイナンス”(日銀による財政赤字の補てん)にあたると指摘する声も出ています。
そして、追加緩和により日銀の資産規模が一段と拡大すると、デフレ脱却後の緩和策からの”出口戦略”がさらに難しくなります。日銀のマネタリーベースは2015年末に350兆円を突破し、GDP比でみると約7割に増大する見込みです。2割前後の欧米中銀と比較して突出しています。緩和が長引けばその度合いは一層拡大しますが、消費税増税延期によりその可能性は高まったとみられています。
出口政策は、市場に混乱を生じさせないように慎重に進める必要がありますが、追加緩和の結果、出口の終了(資産規模の正常化)までには相当の期間を要することになるでしょう。また、日銀が国債を買わなくなると、国債金利が大幅に上昇する可能性があります。これを避けるためにも、緩和終了時点までに財政再建を着実に進めておく必要があります。

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