2024.03.21
人口減社会における地域社会のあり方 ―個を大切にするとともに、輪をつくろう―
碓井 光明 明治大学 専門職大学院 法務研究科 教授(2017年3月退任)個人はお金だけで動くものではない。価値観の多様化が進んでいく
都市と農山村の両方に働く場がなければ、”二重住民”の実現は難しいかもしれないと考える人もいるだろう。働く場について考えるとき、企業の工場誘致などにはもはや期待できない。企業とは利益を追求する存在であり、国内はもちろんグローバルに動き、利益が生み出せないと撤退してしまうこともあるからだ。一方、個人は、お金だけで動くのではない。基本にあるのは、お金を稼ぐという単一の価値観から、私たちの価値観が多様化していかなくてはならないということである。価値観の転換である。収入は比較的少なくても幸せだと感じる人は増えてきているのではないだろうか。
お金を得る手段については、その土地で暮らせば、自然に生まれてくる可能性があるのではないだろうか。その土地にあった農業、漁業、地元にある資源を使った観光など、工夫をすれば、地域に根ざして、しかも収益をあげられるものがあると思われる。地元の人は、地元を知っているようで知らない。そこら辺にあるものが売れるはずがないと思っていたりするため、その地域にある価値を見逃している可能性がある。都市からきた人が、それに気付くことがあるかもしれない。違う目を持った人が入ってくることで、新しい産業が生まれる可能性はあるだろう。
働き方が多様化する。議会での働き方も例外ではない
地域のあり方を考えるとき、私の現在の研究分野である行政法の観点からみると、議会のガバナンスのあり方も課題になってくる。企業などでは多様な働き方を認めるようになってきているが、地域の議会においても働き方の多様化を進めるべきであろう。
例えば、フルタイムで働く議員と、非常勤で参加する議員に分けることも、よりよい地域社会をつくるための一つの方策になると思う。現在は、非常勤の建前でありながら、県や大都市の議会にあっては、事実上、フルタイムで働ける者でなければ議員にはなれないが、サラリーマンや自営業の人など、日中は別の仕事をしている人や主婦なども議会に加わることができる仕組みをつくることである。フルタイムの議員に対して、住民からの監視だけでなく、非常勤の議員からの監視も働くようになる。議員も、選挙に勝つことだけを考えるのではなく、本当に政策をつくることに専念するようになるし、議員に要する費用も少なくすることができる。いい意味での緊張感が生まれ、オープンでいい自治体ができるのではないだろうか。