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金融機関の先進的リスク管理の落とし穴 ―理論的限界を踏まえた数学モデルの活用へ―

松山 直樹 松山 直樹 明治大学 総合数理学部 教授

ERMの枠組みの問題点

 ERMは、リスク管理が進むべき方向性と考えられる。しかし、2008年のリーマンショック時に、格付け会社からERMで先進的であるとしてトップクラスの評価を受けていた世界的な金融機関の数社が経営危機に陥りベイルアウト(公的資金を注入される)という異常な事態が発生したことを忘れてはならない。そうした事態に陥った背景には、その格付け会社の提唱するERMの枠組みと評価基準に何らかの問題があったはずなのだが、それがこれまで十分客観的に検証されずに放置されていることに危機感を覚えている。先進的とされたERMに何かしらの落とし穴があった可能性があるのだ。私は、このERM評価基準で高評価を受けるのに不可欠な「RAPM(Risk Adjusted Performance Measures=リスク調整後収益指標)の最適化」に注目している。「RAPM」は投資対象のリスクの大きさ(リスク資本)を内部評価し、リスク資本に対するリターン(期待収益)の割合を算出する指標である。まさにERMが標榜するリスク管理のブレーキ(分母)とアクセル(分子)が一本化された指標で、その最適化が理想的に見えるのだが、そこにはいろいろと問題があるのではないかと考えている。従来、意思決定においてはリスクとリターンの2次元の2変数アプローチを用いることが標準的とされてきたが、本来あるべき理論的な期待効用最大化原理とのかい離を勘案すると無造作な使い方はできない。少なくとも「RAPM」は1次元の指標であるので、もとの2次元ベクトルから見て明らかに情報を喪失しており、それによる最適化が問題を引き起こしたとしても不思議ではない。

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