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2014.09.01

金融機関の先進的リスク管理の落とし穴 ―理論的限界を踏まえた数学モデルの活用へ―

金融機関の先進的リスク管理の落とし穴 ―理論的限界を踏まえた数学モデルの活用へ―
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先進的リスク管理「ERM」

松山直樹教授 私は生命保険会社において、アクチュアリーとして長年にわたって勤務してきた経験を持つ。アクチュアリーとは、確率・統計などの数理的手法を活用して、保険や年金に関わる諸問題を解決し、財政の健全性の確保と制度の公正な運営に務めることを主な業務とする。その一つとして合理的な保険料の決定があるが、もう一方にはALM(Asset Liability Management=資産と負債の総合的管理)に見られるような、保険会社のリスク管理の役割も担う。ALMとは、保険・年金の負債の数理的特性と資産の特性を調和させることで破たんにつながる重大な金融リスクをコントロールしようとする技術である。1997年から2001年にかけて日本で7つの生命保険会社が相次いで破たんし、ALMの重要性が注目されるきっかけとなった。私も生命保険会社で長くALMに従事してきたが、大学に移って以降も、こういったアクチュアリー数理分野のリスク管理技術を主な研究対象としてきた。
その中で、近年注目されているのが、ERM(Enterprise Risk Management=全社的リスク管理)と呼ばれるリスク管理の考え方である。従来、企業のリスクは種類ごとに管理され、リスク管理はブレーキの役割を果たしてきた。それに対しERMは、ALMも包含する包括的枠組みとなっていて、その名が示すように、取締役会から従業員まで、トップダウンに企業全体で行われるプロセスであり、リスク管理の全体最適化を目指す。それによって、全社的に重要なリスクを特定し、経営資源を効率的に配分することが可能となる。つまり、ERMは企業価値の最大化を目指すリスク管理の手法といえる。いわば、ブレーキの役割に加えて、アクセルの役割も担うのがERMである。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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