明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

“夕張ショック”はもはや過去の出来事か ―新たな財政危機と市民参加の展開―

兼村 髙文 兼村 髙文 明治大学 専門職大学院ガバナンス研究科 教授(2021年3月退任)

求められる議会と市民の対話

兼村髙文教授 各国で導入が進められている「市民参加予算」だが、市民が予算編成に関与することは、首長の予算編成権を侵すことにもなり、審議機関である議会との問題も生じる。実際に「市民参加予算」を導入している国では、議会からの反発も聞こえてくる。しかしそれでも「市民参加予算」が世界各国で広がりを見せている背景には、一方で地方の議会民主制が機能不全に陥っているところがあり、他方で官と民の協働のガバナンスが重視されてきていることがある。
ドイツの哲学者ユルゲン・ハーバーマスは、「二回路型デモクラシー」を唱えた。端的に言えば、議会制民主主義の下で行われる「議会の政治」と、市民社会の中で形成された意見が政治に反映される「市民の政治」の2回路が交流・対話するデモクラシーをいう。「市民参加予算」は、ハーバーマスが言う「二回路型デモクラシー」の実践といえる。現在、各自治体の首長に「市民参加予算」の導入を働きかけており、近い将来、日本でも「市民参加予算」と銘打った取り組みが始まるものと確信している。「市民参加予算」の実現は、自治体の財政危機を回避することのみならず、市民が”自己責任”の意識をもって政治に関与することであり、より成熟した民主主義社会の出現に寄与すると考えている。

※掲載内容は2014年7月時点の情報です。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

社会・ライフの関連記事

「道の駅」には、地域活性化の拠点となるポテンシャルがある

2024.3.14

「道の駅」には、地域活性化の拠点となるポテンシャルがある

  • 明治大学 商学部 特任准教授
  • 松尾 隆策
行政法学で見る「AIの現在地」~規制と利活用の両面から

2024.3.7

行政法学で見る「AIの現在地」~規制と利活用の両面から

  • 明治大学 法学部 教授
  • 横田 明美
LGBTQ問題の法整備の遅れと最高裁の視点

2024.2.29

LGBTQ問題の法整備の遅れと最高裁の視点

  • 明治大学 専門職大学院 法務研究科 教授
  • 清野 幾久子
地球のエネルギー問題・環境問題を解決へと導く人工光合成

2024.2.22

地球のエネルギー問題・環境問題を解決へと導く人工光合成

  • 明治大学 理工学部 准教授
  • 岩瀬 顕秀
COVID-19による経済への影響と支援策から見えた、日本の危機

2024.2.15

COVID-19による経済への影響と支援策から見えた、日本の危機

  • 明治大学 専門職大学院 ガバナンス研究科 教授
  • 加藤 竜太

新着記事

2024.03.21

ポストコロナ時代における地方金融機関の「新ビジネス」とは

2024.03.20

就職氷河期で変わった「当たり前の未来」

2024.03.14

「道の駅」には、地域活性化の拠点となるポテンシャルがある

2024.03.13

興味関心を深めて体系化させれば「道の駅」も学問になる

2024.03.07

行政法学で見る「AIの現在地」~規制と利活用の両面から

人気記事ランキング

1

2020.04.01

歴史を紐解くと見えてくる、台湾の親日の複雑な思い

2

2023.12.20

漆の研究でコーヒーを科学する。異色の共同研究から考える、これか…

3

2023.09.12

【徹底討論】大人をしあわせにする、“学び続ける力”と“学び続けられ…

4

2023.12.25

【QuizKnock須貝さんと学ぶ】「愛ある金融」で社会が変わる、もっと…

5

2023.09.27

百聞は“一食”にしかず!藤森慎吾さんが衝撃体験した味覚メディアの…

連載記事