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2014.02.01

グローバル化する憲法 ―求められる人権保障の多層的システム―

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多層性の担い手

「多層的システム」というと、自分とは無関係な場所で、議員、裁判官、官僚が決めるというイメージに結び付くかもしれません。ですが、実は個人の中にも「多層性」を見出すことは可能です。あるいは、個人が多層性の実現を媒介することがあります。戦後、GHQ民生局の一員として日本国憲法の起草に参加し、24条の原案を書いたベアテ・シロタ・ゴードンという人がいます。彼女はウィーンに住むユダヤ人家庭に生まれ、キエフ生まれのピアニストの父が東京音楽学校(現在の藝大)に招聘されたことよって少女時代を戦前の日本で暮らし、アメリカ留学中に日米開戦となり、戦後、GHQの通訳として日本に戻ってきました。日本語のコミュニケーション能力、日本在住の経験を買われて起草メンバーに抜擢されたのですが、当時の東京で入手しうる世界の憲法をかき集め、自分が実際に見てきた日本女性の状況を一例一例思い浮かべながら、その改善のことだけを考え、だからこそできるだけ具体的な条項を書こうとしたといいます(婚外子差別の撤廃も含まれていましたが、憲法は簡潔であるべきとして削除されてしまいます)。これは、彼女に、ウィーン生まれのユダヤ人、アメリカ人、日本人(アメリカ留学の際に自分が半分以上日本人になっていることに気がついたと述懐しています)という多層的・多元的な視点・経験があったことが活かされた例といえないでしょうか。

宙(そら)から日本を見る

もしも憲法が国際人権条約と接合されたならば、憲法の役割はさらに広がります。そうすれば、憲法は「宙」になぞらえることができます。宙とは、空であり、空間であり、そして過去・現在・未来へとつながっていく無限の時間のことです。すなわち、今の日本の政府を「空」からチェックするルールとして(これが伝統的憲法の役割でした)、この地球という「空間」を共有する人々の間で平和を維持するルールとして、そして、「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」(憲法97条)を過去、現在、そして将来へと引き継いでいくルールとして、というわけです。

※掲載内容は2014年2月時点の情報です。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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