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民主主義と軍事主義。果たして共存は可能か?

明治大学 研究・知財戦略機構 特任教授 纐纈 厚

今年4月、統合幕僚監部の三等空佐が、国会議員に対して路上で暴言を吐く事件が起こりました。防衛省は、この三佐が自衛隊法58条に定められた「品位を保つ義務」に違反したとして、訓戒処分にしました。しかし、この事件は、自衛隊員の「品位」の問題なのでしょうか。

文民統制への理解が進まない訳は

纐纈 厚 「シビリアン・コントロール」という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。そのまま訳すと「文民統制」となりますね。それは民主主義の担い手である「文民」(シビリアン)が軍事組織を統制・管理していこうとする制度です。そんなことは良く知っていることだ、と思う人は多いと思います。では、日本では実際にどのようにして文民統制を機能させているのでしょうか。また、なぜ文民統制が必要なのでしょうか。それをはっきり理解している人は、意外に少ないように思われます。なぜでしょうか。それには、いくつか理由があります。まず、そもそも日本の国民は、自衛隊を軍事組織とはっきり捉えていないからではないでしょうか。私たちにとって、自衛隊を支持する最大の理由に、災害救助で活躍してくれるから、とするのが最初にあげられます。また、世界の紛争地域に派遣されても、直接的な戦闘行為を厳しく制限されているので、どうしても外国の軍隊と同列には置けないとする思いがあります。自衛隊の前身である警察予備隊のように、警察の延長として自衛隊を位置づける見方が長らく続いたことも確かです。

 さらに決定的なのは、戦後の日本の憲法には戦力と呼べる実力組織を放棄することが明記されているからです。ところが、1950年6月25日に始まった朝鮮戦争で、日本に駐留していたアメリカ第8軍が朝鮮半島に出撃し、日本の治安に不安を感じた昭和天皇らの要請もあって、平和憲法の内容を棚上げして再軍備が始まったのです。最初は、旧陸海軍の軍人たちを指揮官とする7万5000人から成る警察予備隊です。そして保安隊を挟んで、1954年7月に創設されたのが自衛隊です。

 つまり、自衛隊は前身を含めて、日本国民の要請によって創設されたのはなく、事実上はアメリカの指令によって創設されものでした。アメリカ軍は独立戦争を闘うために最初は市民軍として生まれ、中国の人民解放軍も名称が示す通り、人民(国民)を基盤として生まれています。それだけに国民と軍隊、あるいは民主主義であれ社会主義であれ、軍事組織が国家社会の中枢に据えられる歴史を刻んでいます。その意味で自衛隊の出自ゆえか、この実力組織への理解や支持が決して不動のものではないのです。

 それで現実に世界の7位にランクされる世界屈指の実力組織となった自衛隊が、戦前の軍隊のように暴走し、政治に介入して戦争を引き起こしてしまわないようにと導入されたのが文民統制です。文民統制とは戦後日本の原則となった平和主義や民主主義が軍事主義によって破壊されないようにと考案された制度なのです。つまり、文民統制は、平和主義と民主主義を守っていくためのものなのです。自衛隊を統制する制度には、議会による統制や内閣による統制、さらには予算による統制など、重層的な統制システムが起動していることになってはいます。これら重層的な統制システムの総称として文民統制の用語を使っていると言っても良いと思います。そうまでして、実力組織(軍隊)を統制する必要があるのは、かつて軍隊が常に政治に介入し、政治に取って代わろうとするクーデターの歴史が沢山あったからです。戦前の日本には民主主義が軍隊によって破壊され、その結果として戦争の時代を迎えてしまった苦い体験があります。その意味で文民統制は、まさに歴史の教訓から生まれたものなのです。

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