2024.03.21
グロテスクを含み、周囲を侵食する「かわいい」は、日本の美意識の王道
伊藤 氏貴 明治大学 文学部 教授日本の美意識に日本人はもっと誇りをもつべき
すると、「かわいい」が世界語になったのは、単なる目新しい言葉として受入れられたのではなく、日本の美意識が「かわいい」によって、わかりやすく伝わったからだとも考えられます。「わび」、「さび」が人生の頂点から下り坂の位置にある心の状態であるのに対して、「かわいい」はこれから頂点に向かう上り坂の状態であることが、世界の人たちには受入れやすかったのだと思います。例えば、欧米に限らず韓国などでも、注目される芸能人はパーフェクトな美しさや能力があるからです。それに対して日本では、不完全さが売りになります。それを「かわいい」と捉えるのですが、一方で、それは未成熟から成熟へと成長する期待も抱かせます。そうした期待感があることが、「わび」、「さび」よりも、「かわいい」が世界で受入れられた要因でもあるといえるのです。しかし、それによって、「かわいい」の背景にある日本の美意識に興味や好感を抱かせたのであれば、例えば、クールジャパンのような、独自性において世界に誇れる日本文化を世界に発信する戦略にとって、「かわいい」は重要な核になる要素であったといえます。
表現する言葉が変わっても、その根底にある日本の美意識が途絶えることなく現代に連綿と受け継がれていることは、世界でも希有なことです。その美意識の中から生まれ、継承されている、雅楽や能楽、歌舞伎、茶道など様々な文化があることに、日本人自身がもっと注目し、誇りをもつべきではないかと思います。それは、クールジャパンのように世界に発信することだけでなく、現代の私たちの心や生活を豊かにすることにも繋がるはずだからです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。