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がん要因の45%は予防可能!! それを知らずに生活するのは危険

宮脇 梨奈 宮脇 梨奈 明治大学 文学部 専任講師

がんの情報源としてマスメディアの信頼度は低い

 一般の人に、この1年間でがん情報を取得したかどうかの調査を行ったところ、約半数の人が取得していましたが、がん予防情報を取得した人は約10%でした。その情報源の多くがマスメディアです。その理由としては、情報を取りやすい、わかりやすいということが挙げられています。では、そのマスメディアがどのような情報発信をしているか調査するために、中央5紙の朝夕刊で1年間に掲載されたがん情報の内容を分析しました。まず、記事数は全体で約5500件でした。同じ内容の情報が各紙で扱われていることも多いので、この情報数が多いのか少ないのかは、判断が分れるところですが、がん情報は比較的コンスタントに扱われるトピックであるといえます。ところが、このうち、予防に関する情報は約14%、検診に関する情報は約15%でした。つまり、新聞によるがんに関する情報は、罹患後の情報が約7割を占めることがわかったのです。がん予防情報の取得者が10%程度なのも、発信される情報が偏っているからかもしれません。その理由は、今後、確認していく必要がありますが、ひとつには、予防情報が面白味や話題性に欠けるからではないかと思われます。例えば、著名人によるがん罹患の公表などは、非常にキャッチーで、一般の人たちの注目を引きます。古くは、男性アナウンサーによる公表や、最近では、結婚後にがんが見つかった女性アナウンサーの闘病情報がマスメディアで大きく取上げられ、世間の注目を集めました。こうした情報をきっかけとして、がん情報の発信が増える傾向はあります。つまり、著名人などのがんの公表や闘病生活は話題性が高いので、マスメディアもこぞって取上げますが、予防情報は地味であるためか、あまり取上げられない可能性があると思われるのです。

 また、マスメディアは情報が取得しやすい、わかりやすいという人が多い反面、信頼できるという人は2割程度という調査結果も出ています。例えば、前述の女性アナウンサーの闘病報道では、その情報が正しいのか精査されることなく、勝手な憶測や推測が情報として拡散した部分もありました。また、数年前に乳がんを公表し、闘病を経て、仕事に復帰している女性タレントの方の場合では、最初の検診でがんが見つからなかったことが知られています。しかし、見つからなかったことを強調するメディアがある一方で、ご本人は検診に行くことを勧める発言をされています。これをきっかけとして、乳がん検診を受ける人が増え、検診がすぐに受けられない状況もあったようです。すると、30代くらいの女性アナウンサーが、半年前に検診を受けたが、また受けようとしたところ、予約が取れなかったという自身の体験を話されていました。実は、厚生労働省のがん検診実施のための指針では、乳がんの検診対象は40歳からで(もちろん、20-30代では受けられないということではありません)、受診間隔は2年に1回です。推測や憶測の情報を発信したり、発信すべき内容を誤判断したり、正しい情報か確認することなく、誤った情報を発信することは、マスメディアの信頼性を下げ、それが、一般の人たちにとって、なにを信じて良いのかわからないという状況を招きかねません。マスメディア側は、なにを伝えるべきなのかを日頃から検討し、用意しておくことが大事だと思います。

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