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「共謀罪」法が問題だらけになったのは、オリンピックのせい!?

鎌田 勇夫 鎌田 勇夫 明治大学 専門職大学院 法務研究科特任教授(退任)

今年6月、いわゆる「共謀罪」法が強行採決の形で成立しました。当時は様々な議論が出ましたが、最近はあまり報道されることもなくなりました。一時の興奮状態が沈静化したいまだからこそ、「共謀罪」法の問題点について、あらためて冷静に考えてみましょう。

「共謀罪」法の立法の意図の説明も、規定内容も曖昧

鎌田 勇夫 いわゆる「共謀罪」法は何のための立法なのかについて、政府の説明が曖昧ではっきりしなかったため、国会での審議がきちんとした議論になりませんでした。もともとは、「国際組織犯罪防止条約」に加盟したいということが目的だったはずです。これは、組織的な犯罪集団の取り締まりに向けて、2000年に国連総会で採択された条約で、2016年時点で187の国と地域が加盟しており、未加盟国は11ヵ国だけです。その中に日本は含まれています。日本が未加盟国である理由は、条約を実施するための国内法が成立していないことです。逆にいえば、日本はそれだけ安全な国だったといえるかもしれませんが、国際社会から見れば、日本は国際組織犯罪防止に注力していない遅れた国で、このままでは国際的信用を失う恐れもあったわけです。その意味で、政府にとって「国際組織犯罪防止条約」に加盟することは、喫緊の課題であったということは理解できます。政府は、この点を真摯にしっかりと説明するべきだったでしょう。しかし、さらにもっと大きな問題は、あまりにも立法を急いだことです。

 まず、新たな法律をつくるのではなく、加盟の条件となる法律に最も近い現行法である「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」、いわゆる「組織犯罪処罰法」に新たな規定を加える手段をとりました。この「組織犯罪処罰法」は1999年に成立している法律ですが、もともと、この法律が処罰の対象としているのは、いわゆる暴力団組織です。しかし、「国際組織犯罪防止条約」が念頭に置いているのは国際的なテロ集団の防遏(ぼうあつ)です。つまり、「組織犯罪処罰法」の本来の目的とは異なります。しかし、立法を急ぎたい政府はこの法律を基に、テロ行為の防止と処罰を目的とした「共謀罪」の規定を入れようとしたのです。そのため、新たに「テロリズム集団、その他の組織犯罪集団の活動として」という文言を入れたのですが、しかし、「その他の組織的犯罪集団」とは何を指すのか、その定義は明確にはされませんでした。そのため、277の対象犯罪を規定しましたが、それが、一般の市民団体の活動にも抵触しかねない危惧を残したのです。さらに、2人以上で計画したこの対象犯罪の準備行為を1人でも行った場合は、計画した者すべてを処罰する、という内容になっていますが、この準備行為もはっきりしていません。一応、例示として、「資金または物品の手配、関係場所の下見、その他計画した犯罪を実行するための準備行為が行われたとき」と示されていますが、「その他計画した犯罪を実行するための準備行為」の範囲がどこまでなのか、あまりにも不明確です。すると、どういうことが起こると考えられるか。何が組織的犯罪集団で、何が対象犯罪の準備行動に当たるのか、それを判断するのは、現場の捜査機関になるということです。実際、法務大臣の国会答弁では、「第一次的には捜査機関が判断し、それを事後的に裁判所が判断する」となっています。これでは、私たち市民は、何をもって捜査され、罪を犯したとされるのかわかりません。こんな恐ろしいことはないでしょう。

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