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GPS捜査をめぐる最高裁判決の意義

明治大学 法科大学院 専任教授 清水 真

プライバシー権侵害の議論に偏りすぎ

 警察の新たな捜査手法が、一般市民のプライバシーを侵害するのではないかというイメージは、例えば、通信傍受法が施行(1999年)されるときにもありました。これは、警察が容疑者の電話を傍受する捜査手法について規定する法律ですが、警察に電話を傍受しても良いというお墨付を与えたようにイメージされ、通信の秘密やプライバシーの侵害が議論されました。しかし、この法律により、通信傍受は強制捜査と規定され、これを行うには裁判所の令状が必要になりました。その令状を出す条件はかなり厳しく、警察もそう簡単に申請はできません。2016年5月に通信傍受法は改正され、通信傍受できる対象が、薬物関連や組織的殺人、銃器売買、集団密航の4つの組織犯罪から、窃盗、詐欺などにも広がりました。しかし、厳格に規定されていることは変わらず、実際上、一般市民の会話が聞かれる可能性は、ほぼゼロといって良いでしょう。

 5月に成立した、いわゆる共謀罪にも同じようなことがいえます。政府の拙速な対応にも問題がありますが、これが戦前の治安維持法の復活につながるという議論も、的外れだと考えます。もともと、アメリカやイギリスなどにコンスピラシー(conspiracy:非合法な行動を実行する計画)という犯罪類型があり、一定の犯罪を共謀して、その中のひとりでも実行する、それをオバートアクト(overt act:犯行の意思が実際にあるという推測を助ける目に見える行為事実)といいますが、そうすると、共謀に関与した人も、実行した人と同じように処罰しようという理論があり、英米法国ではすでに長らく施行されてきています。今回、日本が勝手に考えついたものではありません。元々、日本には古くから共謀共同正犯という概念があり、大正時代から判例法理をもっています。共謀罪の議論に当たっては、既にある予備罪と共謀共同正犯の概念を適用すれば、それで十分に対応できるのではないかという議論がありました。ところが、政府には国際組織犯罪防止条約に批准するという目的があったので、予備罪と共謀共同正犯では十分ではないという説明こそが必要だったはずです。これに反対するのであれば、従来の予備罪・共謀共同正犯で十分か否かを中心に議論すべきでした。しかし、反対する人たちの多くは、監視社会の強化、人権やプライバシー権の侵害問題にしてしまいました。これでは、一般市民の視点もそちらに引っ張られてしまうでしょう。

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