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2013.11.01

耳をすませばリアルな音が聴こえてくる ―音環境と人間の感覚の行方―

耳をすませばリアルな音が聴こえてくる ―音環境と人間の感覚の行方―
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演奏者にとって最適な音の響きを求めて

上野佳奈子准教授 私は、室内音環境の評価・設計法を研究テーマとしています。室内ではその用途によって様々な活動が行われますが、そこではどのような音の響きが求められているか、それぞれの活動に相応しい音環境を生み出すために、建築設計はどうあるべきかなど、人にとって魅力的で暮らしやすい生活環境を社会に提供するための研究です。私が学生時代から一貫して取り組んできたのが、コンサートホールの音響です。一般にコンサートホールの音響は、聴衆にとってどう響くかが問題とされますが、私は演奏者の立場からみたコンサートホールの音響をテーマとしてきました。演奏者は自分が表現したいことを音の響きに乗せて聴衆に伝えますが、その際演奏者にとってどのようなコンサートホールが相応しいか、カタチ(建築設計)やモノ(建築材料)を評価・検証し最適な音環境を創造するための基礎研究です。しかし、答えは一つに収斂されるものではありません。建物には建築家の思想があり、演奏者それぞれの個性もあります。その中で演奏者の感覚に寄り添い、演奏者の感覚とコンサートホールを最良な状態で結び付ける建築のあり方を模索してきました。そして、近年新たに取り組んでいるのが、保育園・学校における、音環境の問題です。

「オープンプラン教室」がもたらした弊害

 現在、日本の小学校の約1割は「オープンプラン教室」を採用しています。オープンプラン教室とは、従来、廊下と教室を仕切っていた部分の壁を取り払って、オープンスペースと教室が一体利用できるようにつくられている教室です。欧米で生まれた形式を取り入れ、個別化・個性化教育の理念から誕生した学習環境であり、教室という閉じた空間を開くことで、より質の高い学びの活動を柔軟に展開できる場として設けられました。教師たちは学級や担任といった枠にとらわれず、互いに連携し、子供たちの自主的な学びをサポートすることが可能となりました。「オープンプラン教室」の教育的観点からの貢献は多々ありますが、私が取り組んでいるのは、壁を取り払い“オープン”になったがゆえに発生している音の問題です。授業に差し障りが生じるほどに音が伝わってしまうのです。その問題を建築の面から、どう解消するか。主に新築の教室が対象となりますが、吸音する材料の採用、教室から出る音を遮る袖壁の設置、教室の離隔など、様々な要素を組み入れ、音の伝わり方を最適化する設計手法、材料の検討を進めています。一方で、「オープンプラン教室」が子供たちの心身にもたらす影響を継続的に調査していくことも必要と感じています。子供たちのために音環境をどう整えるか、このテーマを持続的に追求していきたいと考えています。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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