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「忖度する社会」、日本の特有性を理解することが重要

明治大学 政治経済学部長 教授 小西 德應

最近、忖度という言葉がとても悪いことのように使われています。もともと、他人の心を推し量るという意味ですが、日本社会では、上司がはっきり指示をしなくても、部下はその意向を推し量り、作業を進めるということはよくあることです。政治問題化しているからということがあるにせよ、なぜ、いま、それが悪いことのように捉えられるのか。それは、日本人自身が日本社会の構造を正しく理解していないからだといいます。

欧米と同じ制度を取り入れても、根底には日本特有の構造が存在している

小西 德應 日本社会では、責任の所在がはっきりしない問題が起こることが多々あります。最近でも、福島第一原発の事故問題、築地の移転問題、森本学園や加計学園問題など、責任は誰にあるのかはっきりしません。むしろ、誰も責任をとらなくても良いシステムになっている、といえるのです。それは、以前から指摘されてきた日本特有の社会構造といえるものですが、グローバル化が進む現代でも、なぜ、このような社会構造が、ある意味、放置されたままになっているのか。また、今後も放置したままで良いのか。放置するにせよ、そのしくみと実態についてしっかりと考える必要があります。

 現代にもつながっている日本特有の社会構造がいつ頃から形成されたのか、それははっきりとはわかりません。例えば、権威と権限を分けて天皇家が今日まで生き残ってきたように、はるか以前から、日本社会には、権限と責任が一極集中する強いリーダーを生むことを良しとしない社会観や組織観があったのだと思います。それが、明治維新をきっかけに欧米に追いつく近代化を目指すようになり、変わっていったように見えます。古代から幕末までの間に中国などの影響も受けて形成されていた日本独自の社会システムに、明治期はドイツやイギリスなどのヨーロッパを中心とした制度を、戦後はそれらの上にアメリカの制度を手本として取り入れたのです。そのおかげで、現代の日本人は、自分たちの生活や思考が、その根本に日本的なものを残しつつも、欧米型であると思っていますし、社会構造も欧米型だと思うようになっています。確かに、制度としては外形的に非常に欧米化しています。民主主義だし、法治国家だし、組織にはピラミッド型の指示命令系統があります。ところが、そうした制度が欧米で機能しているのと同じように日本の社会でも機能しているかといえば、実は、決してそうではない。例えば、欧米の指示命令系統では、トップの権限は100です。その下が80、さらにその下が70、60と下がっていき、末端になると権限は0になっていきます。ひとつの組織がトップの指示命令に従って動くようになっています。トップに全権限があれば、全責任もある構造です。ところが、日本社会では一見すると同じように、ピラミッド型になっていても、その実はイエモト・モデルであると、フランシス・L・K・シューというアメリカの社会学者が指摘しています。家元は、師匠として弟子に対して100の権限があります。しかし、弟子に免許皆伝を与えると、その弟子は自分の弟子を取るようになって師匠となり、100の権限をもつようになります。これが代々繰り返されると、100の権限をもつ人がたくさんいる組織になります。現実には、そのような「免許皆伝」がなくても同様のことが起こります。しかも、家元が指示を出すか直接の影響力を及ぼせるのはせいぜい孫弟子くらいまでで、それ以降の弟子に直接命令することはしません。各弟子にとっての直接の師匠の権限を犯しかねないからです。各弟子にしても師匠こそ直接従うべき相手です。結果的に、自分の権限が及ばなければ、責任も及ばない構造です。例えば、企業では、社長は部長に対して指示を出し、部長は課長に、課長は係長に、係長は平社員に指示を出します。大企業では社長が平社員に実質的な指示を出すことはありません。すると、平社員がサービス残業で過労死しても、社長には引責の認識はなく、周囲も社長の責任ではないと思うので、責任をとらせようともしません。これは、その本質や意味を理解することなく、ピラミッド型という目に見える制度が同じであるから生じる「誤解」で、その制度の内には、イエモト・モデルという日本特有の構造があるからだと考えます。

 同様に民主主義も、多数決で決めることだとか、個人が勝手に自由に振る舞うことと、多くの日本人がはき違えています。採決の前に討論と説得の過程が必要で、その結果として、納得や妥協に至ればそれで決まってしまいます。それでも決まらない状況になって初めて多数決が実施されても、すでに少数意見の主張をよく聞いているから、それを尊重できる余地があるのです。ところが今の日本では、その制度の本質や精神がきちんと理解されていません。このような例は、他にもたくさんあります。欧米と同じスタイルや制度を取り入れながら、本質的なところで日本特有の思考や価値観が脈々と流れていて、私たちは意識せずに、それを都合良く使い分け、上手く生活しているといえるのです。

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