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生まれる子の福祉を第一に考えて、生殖補助医療法の早期制定を!

明治大学 法学部 教授 石井 美智子

 2014年には、子どもの21人に1人が体外受精によって生まれています。体外受精をはじめとした生殖補助医療はもう特別なことではありません。国も体外受精の費用を助成しています。ところが、日本では生殖補助医療に関する法の整備が遅れているために、生まれた子どもの親が決まらない等、多くの問題が起こっています。

凍結受精卵の無断移植によって生まれた子の父親は誰に?

石井美智子 生殖補助医療としては、人工授精が古くから行われていました。これは、男性の精子を注射器のようなもので女性の子宮に人工的に注入する方法です。日本では、1949年に、夫の精子に問題があって子どもができなかった妻に、別の男性の提供精子を人工授精し、懐胎出産に成功しています。この場合、父親は、夫なのか血縁上の父である精子提供者なのかが問題となりますが、問題は長い間表面化しませんでした。その後、医療技術が進歩し、体外受精が可能となりました。これは、卵子を体外に取り出して精子と受精させ、できた受精卵を女性の子宮に移植し、懐胎させます。世界初の体外受精子は、1978年にイギリスで生まれています。当時は試験管ベビーといわれ、世界中で大きな話題となりました。この子は女の子で、26才で結婚して自然妊娠し、男の子を出産しています。日本でも、1983年に最初の体外受精子が生まれています。

 体外受精の成功は不妊の夫婦の大きな希望となりました。卵子を体外に取り出すことができるようになったことで、卵子、精子、懐胎を自由に組み合わせて子どもをつくることも可能となりました。提供精子、提供卵子、提供胚、代理出産等です。さらに、精子、卵子そして受精卵を凍結して、生殖補助医療に用いることもできるようになりました。けれども、こうした進んだ技術によって、従来考えられなかったような問題が起きています。今年の1月には、凍結受精卵の無断移植という事件が報道されました。凍結保存していた夫婦の受精卵を妻が夫に無断で子宮に移植し、子どもを出産したのです。夫婦は別居中で、保存していた受精卵を移植することに夫から同意を得ていませんでしたが、クリニックは、夫は承諾しているものと思い込み、きちんと確認をとっていませんでした。日本の民法には、婚姻後200日、離婚後300日以内に生まれた子どもは夫の子と推定される嫡出推定制度があり、夫婦の嫡出子として戸籍に記載されます。この夫は、血縁上の父でもあります。ところが、夫は、妻が自分の承諾なく受精卵を移植したので、自分は父ではないとして、父子関係不存在の確認と損害賠償を求める訴えを起こしたのです。これは、凍結受精卵の無断移植に関する初めての事件ですが、続けて2月にも、同じような事件が起きていることが報道されました。このような問題は、今後も起こるかもしれません。

 実は、法規制がないための混乱は、以前から起きていました。例えば、死後生殖の問題です。夫の死後、保存してあった夫の精子で妻が懐胎出産した事件です。血縁上の父である亡くなった夫を父と認めてほしいと訴えを起こしたのですが、2006年、最高裁は、認知の訴えを認めませんでした。その結果、子どもには、法律上父がいないことになってしまいました。

 父は誰かという問題は、夫が女性から性別変更した男性である場合にも起きました。女性から男性に性転換し、戸籍上も男性に変更した人が女性と結婚し、精子提供を受けて妻が出産した場合、夫婦の嫡出子として出生届を出しても、当初は受理されませんでした。戸籍上、この夫が元女性であったことがわかるからです。この事件では、2013年に、最高裁が、元女性であった夫を父とすることを認め、法務省もそのような出生届を受理するようになりました。

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