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原発を不要にした社会から、さらに永続可能な社会へ

大江 徹男 大江 徹男 明治大学 農学部 教授

社会創りを考えるためのエネルギー政策

 原子力発電にしろ、再生可能エネルギーにしろ、共通しているのは供給がまずありき、という考え方です。その発想が強すぎます。むしろ、最初に述べたように、この5年間ほどの間に、私たちは生活レベルを損なうことなく、原子力発電を必要としなくなるレベルまで節電できたことを評価する必要があります。そのうえで、二酸化炭素等の温暖化ガスをさらに削減するために、需給両面を考慮した体系的なエネルギー政策を構築すべきです。第1段階は、技術的進化を中心とした節電や省エネによって成功したといって良いでしょう。次に、この節電、省エネの取組みをさらに進め、先に述べたような最新機器や電力監視システムの導入に加え、AIやIoT等の次世代のイノベーションを取り入れていくことで、電力消費のベース部分を継続的にかつ確実に引き下げていくことができます。それに関連する新たな産業が生まれ、エネルギー市場は第4次産業革命の主戦場になると推測されます。また、ピーク時に電力会社の要請に応じて節電する消費者のデマンド・レスポンスに対して、報酬を与える仕組み(ネガワット取引)等も注目されています。こうした仕組み、制度を上手く取り入れていけば、技術革新との相乗効果から最大電力需要のさらなる引き下げが可能になるでしょう。最後に、電力を含むエネルギー消費量の削減が進み、必要とされる電力供給力が縮小していけば、火力発電所を順次、比較的規模の小さい地域主導型の再生可能エネルギーに代替していくことで二酸化炭素を減らすことができます。こうした節電や省エネと再生可能エネルギーの3段構えの中長期計画を作成し、具体的に議論していくことが必要です。

 問題はその先です。テクノロジーはあくまでも道具にすぎません。私たちがどのような社会を構築し、次世代に引き継ぐのか、という理念がとても大事になります。エネルギーの持続性という観点から社会をどのように創り変えていくか、という議論です。例えば、二酸化炭素排出量のうち輸送用燃料が占める割合が大きいという点を考えれば、一定程度のエコカーの義務化や都市部への車両の乗り入れ制限、限界に達しているトラックによる長距離輸送に代わる鉄道輸送(モーダルシフト)の推進等は、二酸化炭素を削減するためには不可欠です。同時に、「道路」という公共空間を歩行者が活用できれば、生活がより快適になるでしょう。ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)を今後積極的に推進すれば、快適な居住空間を楽しみことができると同時に、屋外への排熱を大幅に減らすことが可能になるため、ヒートアイランド化現象を緩和することにも貢献するでしょう。このように、都市部における生活環境の改善と農村部における地域振興という観点から次世代に継承すべき社会全体の在り方を考えるひとつの糸口として、エネルギー問題を位置付けるべきだと考えます。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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