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20世紀の“忘れ物”が21世紀を生きるヒントになる

鞍田 崇 鞍田 崇 明治大学 理工学部 准教授

2016年の日本の年間出生数は1899年(明治32年)に統計を取り始めて以来、初めて100万人を割り込みました。少子化に歯止めがかからない状況が浮き彫りになりましたが、この状況が続けば、21世紀の100年間で日本の人口は1/3になるとの予測もあります。そのような縮退社会で、私たちの生き方はどうなるのでしょうか。

21世紀の人口減少社会には新たな可能性がある

鞍田 崇 人口問題の専門家ではない私でも、統計を見てスグにわかることは、日本の人口は20世紀でほぼ3倍に膨れ上がり、それが21世紀に、逆に1/3まで急降下するということです。私はそれを「1/3社会」と呼んでいます。人口がここまで急激に減るということは、日本ではかつてない経験です。このような1/3社会では、人口が増え、社会が拡大していた時代の発想や価値観、考え方を引きずったままでは行き詰まってしまうはずです。未経験の社会に新たな生き方や可能性を見出すためには、やはり、新しい発想や価値観が求められるのではないかと考えています。

 人口減少社会を考えるとき、往々にしてネガティブなトーンになりますが、1/3社会は決して悲観的な社会ではないと私は考えています。例えば、人口減少の社会を表現するのに、よく「縮退社会」という言い方がされます。もともと「縮退」とは、文字通り、縮こまって、退くということであり、恐縮して尻込みするという意味の言葉です。もちろん、縮退社会という場合に、そうした意味はありません。縮退社会は、英語のShrinking Societyの日本語訳として広まった言葉です。ですが、「縮まる」はおくとして、Shrinkingには「退く」という意味はありません。つまり字義どおり訳せば、「縮小社会」でよいはずです。なのに、これを「縮退社会」と訳すのは、人口が増加し、拡大する社会を「進歩」と捉え、人口が縮小し、経済規模も縮小する社会を「退歩」と捉える先入観があるからではないでしょうか。私は、人口が少なくなることによって、むしろ20世紀には実現できなかった新しい未知の可能性を開くことができると考えています。20世紀的発想を引きずったまま、「あれができなくなる」「これはもっと小さくなる」などと考えるから行き詰まるのです。むしろ、縮まることを前向きに捉える視点をもつことが大切です。しかし、まったく想像上の新しいものを求めても、地に足の着いた議論はできません。そういうとき、20世紀の繁栄の中で、隅に追いやられたり置いてきぼりにされたものに、1/3社会での新しい展開や可能性のヒントが潜んでいるのではないかと思うのです。

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