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“問題発見力”が魅力あるものづくりにつながる

明治大学 商学部 教授  富野 貴弘

企業には豊かな発想力を活かすマネジメントが必要

 こうした例は、なにも海外製品ばかりではありません。1979年に初代が発売されたソニーの「ウォークマン」は、それまで音楽は部屋で聴くものという固定概念を破り、どこででも気軽に音楽を楽しむという新しいライフスタイルを創出しました。しかし、「ウォークマン」に格別新しい技術が投入されていたわけではなく、むしろ逆で、すでに存在していた小型録音再生機から、録音機能とスピーカーを省いた製品でした。今年、経営不振で台湾企業に買収されたシャープですが、1992年に発売した「液晶ビューカム」は、それまで8ミリビデオカメラ市場の主流だった“小さくて軽い”製品作りと一線を画し、両手で持たないと撮影できないほど大きく重い製品でしたが、大ヒットとなりました。理由は大きな液晶画面を付けたからです。小さなファインダーを覗きながら撮影し、再生はテレビに接続して見るというそれまでのビデオカメラの常識を破り、“撮ったその場でみんなで見ることができる”という、これもおそらくユーザー自身も気がついていなかった“問題発見と解決”をして、ビデオカメラの楽しさを広げたからです。高い液晶技術をもっていたシャープは、それをスペックとして提示するのではなく、新しい問題解決方法として提示したからこそ、ユーザーは「液晶ビューカム」にワクワク感を覚え、そのワクワク感にお金を出したわけです。

 こうした問題発見やワクワク感につながる製品を産み出す力が弱くなっているのが、最近の日本のものづくりの大きな課題といえます。しかし、日本のプランナーやデザイナーが決して劣っているというわけではありません。海外の企業で活躍している日本人デザイナーもいます。彼らは常人とは違う視点をもち、発想が豊かで物事の本質を見抜く力がある人なのですが、ある意味、ちょっと変わっている人が多いようです。要は、そういうちょっと変わっている人を活用するマネジメントが企業に求められているということです。ただし、ワクワク感を判断するのはひじょうに難しいです。数値で定量的に表せないからです。それに比べると、スペックや機能はわかりやすく、優劣が判断しやすい。また、従来の延長線上にある価値観の中で、より小さくしたとか、より軽くした、というものも判断しやすい。しかし、新しい価値観をもったものは比較対象がなく、それを判断するのは難しいわけです。そういった製品は“良し悪し”ではなく、どちらかというと“好き嫌い”の範疇で判断しないといけないからです。そのとき、それを判断不能と否定するのではなく、そのワクワク感や新しい価値観を正しく判断し、リスクを負っても製品化しようとする決断は企業のトップ層にしかできません。かつてのソニーやシャープなどにはそうしたマネジメント力があったからこそ、発想力の豊かなものづくりで世界から注目されたのでしょう。

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