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2016.11.24

人口減少は経済成長を促す要因にもなりうる

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AIの進歩によって人のライフスタイルも変わる

飯田 泰之 一方で、こうしたAIやロボティクスが発展した社会では、人はどうなるでしょう。日本を含めて世界中で研究されているAIは、ある程度限定された目的に対して最適な解をあたえるように学習を行う「特化型AI」と呼ばれるものです。もっとジェネラルなスキルをもった「汎用型AI」が登場すると、いまある仕事の8割がなくなるという予測があります。

 歴史を見ると、技術の進歩による失業は多々ありましたが、それは主に肉体労働の分野でした。しかし、膨大な情報をハイパースピードで処理することができるAIが実用化されると、例えば、難しい手術などは行わず日常的な診断を行っている医師、判例の調査などを行う弁護士事務所の法律専門事務員など、学歴や経験、熟練が必要とされてきた仕事もAIに取って代わる可能性が高いのです。汎用型AIが登場すると、その傾向は加速するといわれています。

 このような世界で、人はどのような仕事を担うようになるのでしょう。マネージメント層と呼ばれる意思決定と責任を担う経営層、まったく新しいアイデアを生み出すクリエイティブ層、そして、人に癒やしを提供するホスピタリティ層になるといわれます。経営層やクリエイティブ層の人員数はある程度限られているので、多くの人はホスピタリティ層に就くことでしょう。それは、収入の点で二極分化になるかもしれません。AIの進歩は経済の成長を高めますが、最も成功したAI関連企業によるウィナー・テイク・オール、つまり一人勝ちの可能性が高いからです。しかし、AIが社会インフラとなるほどに進歩、発展したとき、その利益は社会全体のものという考え方が起こるでしょう。つまり、形としてはウィナー・テイク・オールであっても、その利益は社会全体に平等に配る、再配分政策が考えられるはずです。最低限所得保障を行うベーシック・インカムなどの導入が必要になる。

 しかし一方で、ホスピタリティの価値はいまよりもはるかに高まるはずです。というのは、すでに私たちが欲するものは、ものではなく、形のないサービスやストーリーを求めるようになってきているからです。例えば、心が癒やされる自然の眺めが味わえる、心地良い快適な旅館には、何度でも訪れたくなるでしょう。そのとき必要なのは、ホスピタリティであり、それを可能にするのは人なのです。効率を追い求める作業はAIとロボットに任せ、人は効率をあまり求めない働き方にシフトし、そこから商品を提供していく社会になっていくのではないでしょうか。ものの消費には限界がありますが、非物質化したサービスには消費の限界がありません。そのような価値観の下では、人口減少による国内マーケット縮小の影響も、悲観するほど大きくはないはずです。

 人口減少を悲観するばかりではなく、それはAIが技術発展する機会となります。発展したAIによって人々が快適に暮らせる社会づくりに、目を向けるべきではないでしょうか。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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