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仮想通貨「ビットコイン」 ―その課題と可能性―

浅井 義裕 浅井 義裕 明治大学 商学部 教授

代替通貨として普及する理由と課題

 ビットコインが世界的に拡大しているのは、先に述べたように、国境を超えた決済や送金に、手数料がほとんどかからない仕組みであることが、多くのユーザーに支持されたからだが、そればかりではない。中央銀行が発行する通貨への信用力が低い国などでは、ビットコインのメリットが大きくなる。端的にいえば、貨幣価値が日々下落していくような超インフレ状態の国だ。こうした国では、自国通貨よりもビットコインのほうに信頼性があるため、代替通貨として使用されるだろう。また、2013年、ギリシャの金融危機の影響などで、キプロス共和国が財政難に陥った際にも、ビットコインに注目が集まった。キプロス政府が国民の預金の一部を取り上げようとしたため、国家権力の及ばないビットコインへ資産を移すものもいた。
さらに一部の移民にとってもビットコインは有効かもしれない。たとえば、アメリカ南部にはメキシコからやってきた不法移民が少なくない。アメリカでは、銀行口座を開く際、運転免許証を取得する際、住宅を借りる際など、生活のありとあらゆるときに、ソーシャル・セキュリティ・ナンバー(社会保障番号)の提出が求められるが、不法移民にはそれがないため銀行口座の開設はできず、給与を受け取ることもままならない。ドル通貨に代わってビットコインを持つことが、生活を支えることにつながっていく可能性がある。私見では、ビットコインは中央銀行の独立性が低い途上国や不法移民などの間でメリットが大きいと思われる。実際、いまのところ、日本にいてビットコインの必要性をさほど感じないのは、私だけではないだろう。
しかし、メリットを考えると、慢性的な財政赤字、金融緩和といったインフレの条件が整いつつある日本などの先進国でも、ビットコインの成長の可能性は否定できない。さらに、ビットコインを支える技術は、金融の仕組みを革新するプラットフォームとして発展し、モノの所有や決済のあり方に革命をもたらす基盤となる可能性も秘めている。
ちなみに、ビットコインは、単に決済の手段に留まらない。もともと、2013年10月頃までは、1BTC(ビットコイン)が1万円程度であったのが、2013年12月には1BTCが12万円以上になった。その後も、価格が乱高下を繰り返しているため、投機の対象ともなっている。さらに、資金洗浄や違法薬物売買など、不正な取引の温床になっているという指摘もある。ビットコインは課題も多い。

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