2024.03.21
- 2018年8月8日
- IT・科学
紙幣を持ち歩くのは時代遅れ!?
小早川 周司 明治大学 政治経済学部 教授日本のキャッシュレスに向けた取組み:ユーザーに「ワォ!」を
それに比べて日本では、銀行や郵貯のネットワークが全国に行き渡り、ATMがどこにでもあります。国民の9割以上が預貯金の口座をもっていて、ある意味、こうした現状に満足していて、このシステムをより新しいものに変えていこうという思いが生まれにくくなっています。その一方で、キャッシュレス化は、銀行などが提供する従来のサービスでは応えられないユーザーの利便性向上につながる、という側面もあるのです。実際、中国のアリペイもウィーチャットペイも運営会社はIT関連企業です。スマホで決済するという発想はIT関連企業ならではの取組みであり、ノンバンクだからこそ、ユーザーの利便性を追求したサービスを提供できたともいえます。日本でも、パスモやスイカなどの電子マネーが駅の改札だけでなく、駅構内の売店やコンビニでも使えるようになっていますが、スマホをさらに活用して、私たちの日常生活により密接かつシームレスなサービスを提供するようになると、キャッシュレス化が一気に広がるかもしれません。その意味では、QRコード規格の統一に向けた動きは注目すべきでしょう。現在は、コンビニのカウンターに決済手段毎の専用の端末が並んでいるような状況ですが、QRコードを利用すれば、店舗側は専用の端末を設置する必要がないため、手数料負担を軽減できるほか、ユーザーもスマホでQRコードを読み取れば決済が完了するため、財布から紙幣やクレジットカードを取り出す必要がなく、お互いにメリットがあるといえます。さらに、こうした決済手段が私たちの生活によりシームレスなサービスを提供するようになれば、利便性の向上を実感できるようになるでしょう。ユーザーに「ワォ!」という感動をもたらす――フィンテックを使ったキャッシュレス化にはそうした潜在力があります。
キャッシュレス化は、アジアだけでなく、ヨーロッパでも広がっています。スウェーデンでは、モバイルペイメント(スマホなどのモバイル端末による電子決済サービス)が定着し、市民は日々の生活で紙幣を持ち歩くということがほとんどないようです。国立銀行のリクスバンクでは、紙幣を補完するためeクローナという、中央銀行が発行するデジタル通貨を検討しています。キャッシュレス社会は世界の潮流といえるでしょう。日本でも様々な検討や取組みが始まっていることに、私たち生活者も関心をもつことが欠かせないと思います。