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2018.04.04

共感を得るのは身体表現をともなったコミュニケーション

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脳のミラーシステムの発達が人間の社会性を高めた

嶋田 総太郎 脳と身体の関係について、さらに興味深いのが、脳にはミラーシステムといわれる領野があることです。実は、運動をしているときには脳の運動野が活動しますが、自分が運動していなくても、他者が運動しているのを見ているだけで、この運動野が活動するのです。つまり、人は他者の動きを見て、脳の中で、ある種のシミュレーションを行っていると考えられるのです。その理由のひとつは、人には、他者のことをもっとよく理解したい、という潜在的欲求があり、そのために、他者の理解を促進する目的で運動のシミュレーションを行っていると考えられます。他者を理解する手段であるコミュニケーションは、言語によるやり取りと思われがちです。しかし、脳を観察すると、高レベルな言語情報のやり取りとは別に、よりローレベルな身体の情報処理によるコミュニケーションも行われていることがわかります。この非言語コミュニケーションをノンバーバル・コミュニケーションといいますが、人間にとって、これは言語情報よりも重要だという研究もあります。例えば、友人が辛いことで悲しんでいると、自分も悲しくなることがあります。自分と他者を同一視する共感という現象ですが、実は、これも脳のミラーシステムによって起こります。この場合、人は意識的に共感しようとするわけではなく、他者の行動をシミュレーションすることによって、自動的に感情も同じような状態になるのです。つまり、共感とは、身体レベルで共鳴することで自分と他者との境目がなくなり、自分と他者が重なることで起こるわけです。人は、こうして他者と重なったり、また、離れたりという活動をダイナミックに推移することによって、社会性を高めてきたと考えられます。

 実は、脳のミラーシステムは、人間以外の動物にもあることがわかっています。鳥が親のさえずりを真似するのも一種のミラーシステムです。ところが、人間は、ミラーシステムによる身体の共鳴から共感を起こすだけでなく、さらに、他者の気持ちを推し量る推論をすることができるようになりました。これはメンタライジングといわれます。共鳴と共感は身体レベルで自動的に起こる現象ですが、メンタライジングは意識的に他者の心理状態を推論し、それによって自分の行動を決定します。このような活動は、他の動物にはほとんどありません。人間が、他の動物にはない複雑な社会を形成することができたのは、このメンタライジング機能のために脳を発達させたからだともいわれます。これは「社会脳仮説」と呼ばれています。例えば、霊長類の脳の大きさと、どのくらいの規模の集団をつくれるのかの関係を調べると、相関関係があることがわかります。チンパンジーでも、つくれるのは数十頭レベルの集団ですが、より脳の大きい人間は、150-200人くらいの規模になり、しかも、別の場所にある複数の集団に属することも可能なのです。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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