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デジタル化された日々に、健全なアナログ志向を持ち込もう

明治大学 理工学部 准教授 波戸岡 景太

電子書籍の普及や動画コンテンツのネット配信が拡充し、利用者である私たちの文化的生活は急激な変化にさらされています。それと同時に、創作という行為がまるごとデジタル化されつつあり、そうした状況が、あらためてアナログ志向の必要性を浮き彫りにしています。はたして、デジタル化への単なる抵抗で終わらない、時代に寄り添うような「健全」なアナログ志向は可能なのでしょうか。

作家が「手書き」にこだわる理由

波戸岡 景太 インターネットの普及によって、私たちの生活空間は大きく変化しました。大量のデータが一瞬でやり取りされるようになり、クリエイターたちの現場でも、デジタル入出力で創作活動が完結してしまうことも珍しくありません。出版業界でも、作家がみずからの手で書いた「生原稿」といったものは激減し、データ入稿が基本となっています。こうしたデジタル化の波は、年々その強さ・激しさを増していて、とくに電子書籍が日本国内でも流通し始めた2010年代は、作品そのものがデジタル化され、従来の「本」をわざわざ「紙媒体」と呼ばなければならないようになりました。考えてみれば、これは、活版印刷の発明にも比肩する、きわめて大きな転換期に私たちが直面していることを示唆しています。

 そうした中で、私がかねてより注目しているのは、作家・古川日出男さんの活動です。古川さんは、近年欧米での翻訳紹介も進んでいる、現代日本を代表する小説家なのですが、彼が最近、日本文学の古典である『平家物語』の現代語訳に挑戦しました。聞くところによると、原稿用紙で1800枚に及ぶその訳文は、すべて古川さんの手書きによるものだそうです。もちろん、出来上がった「紙媒体」の『平家物語』は、通常の書店で販売されているふつうの書籍です(とはいえ、900頁を超える一巻本なので、たいそうなボリュームですが)。よって、その執筆のスタート地点が、はたして手書きというアナログ作業であったか、それともパソコンによるデジタル入力であったかは、一般の読者には見分けがつきません。では、古川さんが手書きにこだわった理由は何だったのでしょうか? 

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