明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

先進の光計測技術を活かし、ディーゼルエンジンを進化させる

相澤 哲哉 相澤 哲哉 明治大学 理工学部 教授

CO2の排出が格段に少ないディーゼルエンジンの優位性をさらに高める

 日本では、乗用車のディーゼルエンジンの割合は数パーセント程度ですが、ヨーロッパでは半数以上といわれています。日本で不人気なのは、排ガスが汚い、臭い、エンジン音がうるさい、振動が大きいというイメージが定着してしまったからです。特に1970年代、スモッグなどによる公害や大気汚染が社会問題となり、車の排ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)が問題視され、規制が厳しくなりました。ガソリンエンジンは触媒を使ってNOxを浄化しましたが、ディーゼルエンジンは、NOxの排出を減らすと煙が多くなるトレードオフの特性があったため、ディーゼルエンジンは煙が出る、汚い、臭いと見られるようになったわけです。それに対してヨーロッパでは、NOxと煙の排出規制にバランスがとれていたことと、ドイツで優れたディーゼルエンジンの開発が進み、ガソリンエンジンに比べて燃費が良いことやトルクフルな走りの魅力が認められ、日本のように軽油がガソリンよりも安いということがないにもかかわらず、ディーゼルエンジンの優位性が市場に受入れられてきたという歴史がありました。さらに、地球温暖化が注目されるようになると、ディーゼルエンジンは二酸化炭素(CO2)の排出量が格段に少ないことが大きなメリットとみなされるようになりました。

 ディーゼルエンジンのCO2の排出量が少ないのは燃費が良いからですが、それはディーゼルエンジンの熱効率が良いからです。現状最高のガソリンエンジンの熱効率が39%くらいなのに対して、ディーゼルエンジンは43%です。私たちSIPの「ディーゼル燃焼チーム」は、この熱効率を50%以上にすることを目標にしています。しかし、それは簡単なことではありません。世界中の自動車メーカーが何年もかけて様々な技術革新を行い、1%ずつ性能を上げてきたのです。それを一気に高めるために、私たちのグループで取組んでいるのが「後燃え低減」です。 ディーゼルエンジンは、エンジン内に送り込んだ空気を圧縮して高温にし、そこに燃料を吹き込んで燃焼させる構造です。この吹き込んだ燃料をより短い時間でスパッと燃え切らせることが、効率の良いエンジンにつながります。それが「後燃え低減」です。燃え切らせるまでの時間を短くするには、圧縮された空気に、燃料を瞬時に均質に混ぜることが重要です。1/100秒ではまったく遅く、目標は1/1000秒で混ぜることです。しかし、混ぜる時間を短くするほど、今度は均質に混ぜることが難しくなってしまうのです。

IT・科学の関連記事

植物のストレス耐性遺伝子が、食糧危機の救世主に

2024.2.1

植物のストレス耐性遺伝子が、食糧危機の救世主に

  • 明治大学 農学部 准教授
  • 高橋 直紀
数学的見地から、生物多様性の保全をはじめとする社会課題の解決へ

2023.12.7

数学的見地から、生物多様性の保全をはじめとする社会課題の解決へ

  • 明治大学 研究・知財戦略機構 特任教授
  • 中村 健一
中小企業のDX推進こそが日本経済再興のカギ

2023.11.2

中小企業のDX推進こそが日本経済再興のカギ

  • 明治大学 経営学部 教授
  • 岡田 浩一
完全自動運転のためのセンシング技術

2023.5.10

完全自動運転のためのセンシング技術

  • 明治大学 理工学部 准教授
  • 網嶋 武

新着記事

2024.03.21

ポストコロナ時代における地方金融機関の「新ビジネス」とは

2024.03.20

就職氷河期で変わった「当たり前の未来」

2024.03.14

「道の駅」には、地域活性化の拠点となるポテンシャルがある

2024.03.13

興味関心を深めて体系化させれば「道の駅」も学問になる

2024.03.07

行政法学で見る「AIの現在地」~規制と利活用の両面から

人気記事ランキング

1

2020.04.01

歴史を紐解くと見えてくる、台湾の親日の複雑な思い

2

2023.12.20

漆の研究でコーヒーを科学する。異色の共同研究から考える、これか…

3

2023.09.12

【徹底討論】大人をしあわせにする、“学び続ける力”と“学び続けられ…

4

2023.12.25

【QuizKnock須貝さんと学ぶ】「愛ある金融」で社会が変わる、もっと…

5

2023.09.27

百聞は“一食”にしかず!藤森慎吾さんが衝撃体験した味覚メディアの…

連載記事