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ワールドカップ開催に沸くブラジルの光と影 ―異文化を越えた相互交流のススメ―

中林 真理子 中林 真理子 明治大学 商学部 教授

企業倫理リスクの軽減がもたらす社会利益

 ブラジルの倫理問題について言及したのは、私の主要な研究テーマである「保険会社の企業倫理」と密接に関わってくるからです。日本の現状を理解するために比較材料として海外の事例を検討していますが、「メンサロン事件」の行方を理解することは、日本の保険会社がブラジル進出を試みる際に乗り越えなくてはならない異文化理解の一歩となると思われます。
私はリスクマネジメントの研究者として、企業をめぐるリスクの一つとして企業倫理に関する問題を捉え、特に保険会社を研究対象としています。元々大学院時代に“モラル・ハザード”に着目しましたが、この言葉はもとは保険市場を対象とした研究で、故意や重過失により損失の発生や拡大を助長することを意味する用語として使用され始めました。保険契約においては、保険加入を契機とした事故招致を、また企業経営においては、規律や倫理が欠如した放漫経営を表します。そして1990年代頃から注目され始めたのが企業倫理であり、企業の不祥事が起こるたびに、その原因として経営者のモラル・ハザードが指摘され、コンプライアンスの強化が求められるようになってきました。不祥事を起こした企業の社会的信用は失墜します。リスクマネジメントの観点から、「企業倫理リスク」が深刻化していることを認識し、このリスクを軽減する方法を確立することが求められます。それが長期的には企業にとっても消費者にとっても望ましい結果をもたらし、社会全体の利益になると考えられます。
企業倫理リスク軽減のためのアプローチとして、キーワードの一つになると考えられるのが“バリュー・シェアリング”です。企業内部で高い倫理観に基づく価値観を共有することで、経営者や従業員が企業の社会的責任を明確に意識し、それを実践するための制度を経営に組み込む必要がある。たとえば、独自の倫理綱領を明文化した上で、共有すべき価値観を組織に浸透させるための教育・研修を実施するといった“バリュー・シェアリング”の実践が、企業倫理リスクの軽減に有効となります。

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