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ゲーテッド・コミュニティの実態に迫り、その“可能性”を探る

菊地 端夫 菊地 端夫 明治大学 経営学部 教授

ゲーテッド・コミュニティには、これからの日本社会を考えるヒントがある

 しかし、ゲーテッド・コミュニティの実態はそれだけではありません。実は、ゲーテッド・コミュニティの多くは都市部ではなく、郊外につくられています。アメリカの社会階層の構造は、都市と郊外で大きく分れます。また、アメリカには日本でいう市町村が存在しない地域がたくさんあります。そういった地域は、日本でいう都道府県が直接行政を行っているため、きめ細かいサービスは難しくなってしまうのです。そこで、ゲーテッド・コミュニティには、そうした地方自治体が担うサービスの領域を、自分たちでマネジメントする自治機能があるのです。もともとアメリカは、Home Owners Association(住宅所有者組合)という、日本でいうマンションの管理組合のような組織の力が強いのですが、ゲーテッド・コミュニティでは、住民たちからの管理費を基に、コミュニティ内のゴミ収集、道路や公園、プールなどの共有施設の管理を行っています。その活動は、時に私的政府(Private Government)と呼ばれています。

 実は、日本では、ゲーテッド・コミュニティをつくることは、建築基準法上できません。住宅地は原則、「道路」に接道していなくてはいけないと規定されているからです。また、使用料の安い市民プールや市民体育館、市民テニスコートを誰もが気兼ねなく利用できる日本では、ゲーテッド・コミュニティの仕組みにも学ぶことは少ないように思えます。しかし、少子高齢化、低成長時代に入った日本で、いままでのように様々なサービスや管理を全て行政に任せていては、財政難によって、質的にも量的にも持続可能ではなくなってきます。そこで、官だけでなく、企業やNPOなど多様な民が一体となって、住民サービスや地域の価値を高める様々な活動を起こしていくエリア・マネジメントが議論されています。ゲーテッド・コミュニティには、そうしたエリア・マネジメントを考える上で貴重なヒントがあるのです。

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