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移民をスケープゴートにするトランプ政権に改革は期待できるか?

明治大学 文学部 教授 林 義勝

政治家としてのリーダーシップに欠けるトランプ大統領

林 義勝 アメリカの歴史を振り返って見ると、移民の問題だけでなく、保守とリベラルが揺り戻しを繰り返していることがわかります。1950年代に白人を中心にした豊かな時代を迎え、それが1960年代以降、公民権運動やグローバル化によって多様化が進むと、1980年代に保守派が盛り返して「文化戦争」が起きます。その後、21世紀になってオバマという黒人の大統領が誕生し、そのオバマ政権下で、さらに多様化やリベラル化が進みました。トランプ政権の誕生は、それに対するアンチテーゼ、揺り戻しとみることができます。しかし、トランプ政権の政策は、全般的に排外的な自国中心主義をとることで、アメリカ人の保守的な感情に訴えたり、労働者層の目を移民に向けるばかりです。短絡的で、本質的な改革につながらず、トランプ大統領には政治家としてのリーダーシップに欠けるといわざるを得ません。

 例えば、大統領令による移民規制は、裁判所から憲法違反の恐れがあると待ったがかかった状態になっています。もともと、イギリス国王の独裁から立ち上がり、戦争を経て独立したアメリカ合衆国では、連邦憲法は13州の議論と承認の末に制定し、何より独裁的、専制的に国を治めることができないようにすることを主眼に置いてつくられています。人格者がトップになれば良いではなく、誰がトップに就いてもチェック&バランスのシステムが働く制度になっているのです。その意味で、トランプ大統領と司法が対立しているのは、トランプ大統領の政策にリーダーシップがなく、独裁的であるために、それを阻止する機能が働いているといえます。さらに、アメリカでは第四の権力といわれているメディアが、政権を厳しくチェックします。1974年に当時のニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件は、ワシントンポストの2人の新聞記者の取材がきっかけでした。トランプ大統領も、タックスリターン(確定申告の内容)を公表しないことや、虚偽の情報を発信することなどで、メディアと激しく対立しています。また、日本のように党議拘束が強くなく、有権者の意向を重視する議員たちは、共和党であっても、トランプ大統領が進めようとしたオバマケアの廃止に反対しました。2年後の下院議員の選挙結果によっては、トランプ大統領の立場はさらに厳しくなるかもしれません。保守とリベラルの揺り戻しを繰り返すアメリカの歴史や、独裁者を許さないアメリカのシステムを考えると、トランプ政権がcredibility(信頼性)を失うのは、意外と早いのではないかとも思います。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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