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「東アジア共同体」を構築するために“日本型TPP”を促進すべき

明治大学 国際日本学部 准教授 金 ゼンマ

日本型経済連携協定の色合いが強くなったTPP

 第2次世界大戦後、ヨーロッパの欧州連合構築の動きを受け、東アジアでも共同体をつくる動きが起きます。まず、1990年にマレーシアのマハティール首相が、EAEC(東アジア経済協議体)という東アジアにおける経済グループの枠組みを提唱します。しかし、これはアメリカの猛反対に遭います。アメリカは、東アジアに排他的な経済ブロックができ、そこから閉め出されることを懸念したのです。その後、韓国の金大中大統領がEAEG(東アジア経済グループ)を提案したときもアメリカは反対し、シンガポールのゴー・チョク・トン首相がASEM(アジア欧州会合)を提唱したときはアジア側の足並みが揃わなくなっていました。

 その間、日本の立場は微妙でした。アメリカが反対するものに積極的に参加することはできず、また、かつて大東亜共栄圏構想を基に東南アジアに進出した歴史もあり、イニシアティブをとることもできませんでした。この状況を変えたのが、2001年に就任した小泉首相です。小泉首相は、「東アジア共同体」をいきなり提唱するのではなく、2国間の経済連携協定を提案したのです。しかも、重要なのはこの協定が自由貿易を主目的としたFTAではなく、例えば、投資、人の移動、知的財産の保護、競争政策におけるルール作りなど、様々な分野での協力を含む経済連携協定(EPA)であったことです。つまり、貿易の自由化だけでなく、相手国の経済発展を促し、それによって政治的安定を実現し、ガバナンスの向上を目指すことを意図していたのです。このEPA協定は、まず2002年にシンガポールと結ばれます。当時の日本にとって、シンガポールと協定を結んでも経済的メリットはほとんどありませんでした。しかし、小泉首相の意図は、こうした2国間のEPA協定を広げていくことで、東アジア経済共同体を構築することにありました。実は、こうした効果をスピルオーバー効果といいます。1950年代末にエルンスト・ハースらが提唱した理論で、例えば、A国とB国が経済的に協力して統合し、信頼関係を築いていくと、この経済統合はやがて社会的な統合につながり、さらに、それを見ている近隣国にもその関係が拡散し、地域の政治統合につながっていくことを理想とする理論です。EUも、このスピルオーバー効果に基づいてつくられた枠組みです。日本は、シンガポールに続き、2005年にメキシコ、2006年にマレーシア、2007年にタイ、2008年にインドネシア、と次々に協定を結び、現在は15のEPA協定が発効済みとなっています。

 ところが、こうした状況に変化が起きたのが、TPPへのアメリカの参加です。もともとTPPは、P4と呼ばれる小国(ブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポール)がつくった枠組みでしたが、先に述べたように、東アジア経済圏から閉め出されることに懸念をもっていたアメリカは、環太平洋という枠組みなら自らも参加でき、ルールセッティングできることに目を付けたのです。私たちアジアの人間は、アメリカの目がそれほどアジアに向けられているとは思っていませんが、実は、アジアは世界からエマージング・マーケット(新興国市場)とみなされ、注目されているのです。アメリカが参加したのを受け、日本も2013年にTPPに参加します。ここで重要なのは、アメリカや日本が参加したことで、TPPの条項は日本が進めてきたEPAに非常に近くなったことです。つまり、自由貿易だけでなく、知的財産権や環境、労働などの分野でもルール作りが行われ、非常にハイレベルな経済連携協定となったのです。TPPはEUに匹敵するような、環太平洋地域の平和構築を目指す枠組みになったといえるのです。

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