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2017.02.08

「カワイイ」ファッションはフランスでも人気?

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西洋中心的視点から解放された文化の形成のために

高馬 京子 こうした日本のファッションを受容するという日仏の関係は、いまに始まったことではありません。19世紀に人気を呼んだキモノも、最初、西欧中心主義の他者を占有しようとするオリエンタリズムの流れの中で消費された側面もあります。同じように、当時のピエール・ロチが書いた小説『お菊さん』の中で、日本女性は「ムスメ」、日本は「かわいい」「小さい」とイメージされた延長に、100年以上たった今でも「カワイイ」ファッションも位置づけられているといえるのではないでしょうか。こうした背景のもと、フランスは日本だけでなく様々な異文化のファッションを取り込み、自国のファッションとして形成・発信する、つまり影響を与える国としての歴史があったわけです。例えば、先に述べたように「ジャポニエズリー/日本ののろま」とフランスのある新聞によって批判的、皮肉的に紹介されていた「カワイイ」ファッションも、デザインソースとしてフランスの老舗ブランドに採択され、新しいコレクションとして提案されると、同じジャーナリストにそれは正当なフランスファッションのデザインソースとして、肯定的に取上げられていくということがあります。このような表象行為から、今も尚、ある種のオリエンタリズム的行為が続いているといえるとも思われます。

 しかし、マスメディアによって批判的、皮肉的に取上げられていた「カワイイ」ファッションを、デジタルメディアで実際に受容する若者たちが好意的に受取ったことには、新しい流れの始まりがあるのではないかと思います。それは、「カワイイ」の正しい意味を発信していくチャンスというようなことではありません。文化は「受入れろ」といって受け入れられるものではなく、伝わっていく、伝播していくといわれています。マスメディアや大企業の提案するものと違う流れを作るのは、以前のようなストリートファッションではなく、デジタルメディアが主流といえます。先に述べたように、みんなが西洋、フランス発信の一つのスタイルに追従していたグローバリゼーション時代のモードとは異なり、デジタルメディア時代のファッションの形成と伝達は、個人の自己実現欲望や、ときにはトランスナショナルで多様な主体によってなされるわけです。文化の形成と伝達でも、同じことがいえるのではないかと思います。いま、いかに外国人の関心を引き、日本製品を売り込むかに焦点を当てているクールジャパン戦略や現代版ジャポニズムの動きも見られます。今後、長い目でみて、西洋中心的視点、オリエンタリズム的視点から解放された場所で、日本文化を形成し、海外に発信できるか、その試みを考えていく必要があると思います。そのとき、この「カワイイ」ファッションの伝播には重要なヒントがあると思います。そして、海外の若者に外国人に関心を引くことができるような、ポストカワイイの日本のファッション、美意識を探し、「カワイイ」を短命文化と切り捨てるのではなく、フランスの「カワイイ」ファッションのように、他者を占有しようとするのではない若者の声から望まれ、再形成されたファッションや美意識を、根気強く新たな「文化」として認め、見守っていくという視点も、これからの時代の国際相互理解のためにも必要ではないかと思うのです。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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