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2016.12.21

移民の急激な受入れ、反民主主義体制のままではEUは瓦解の危機に直面する

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イギリスが強く感じる主権侵害や反民主主義

安部 悦生 イギリスがEU離脱を選択したもうひとつの大きな理由は、主権の問題です。もともとEUは、20世紀に2つの世界大戦の戦場となったヨーロッパが、二度と争いを起こさないという理念の下、共同体の構築を目指したものです。ですからスタートは、争いの元凶となりやすかった資源を共同管理する目的で、1952年に石炭鉄鋼共同体(ECSC)が設立されたのです。このECSC設立時にイギリスは参加しませんでした。その理由は、まさにその“共同管理”を主権の侵害と捉えたからです。もともと炭鉱労働者の意見が強かったイギリスにとって、炭鉱の閉山を自分たちで決められないような共同管理に縛られることは、受入れられるものではありませんでした。しかしその後、経済が落ち込んだイギリスは経済的な関係を深めるために、1973年に当時の欧州共同体(EC)に加盟します。しかし、主権に関する意識が非常に強いのは変わっていません。単一通貨のユーロや、出入国審査なしで国境を越えられるシェンゲン協定にイギリスが加わっていないのは、通貨の管理も国境管理も国の大切な主権と捉えているからです。

 そんなイギリスにとって、政治の主導権をドイツとフランスが握り、官僚機能をベルギーとルクセンブルグが握るいまのEUでは、政治的にも行政的にもイギリスの意見は通らず、どちらからも排除されているという感覚を強くもたざるを得なくなりました。例えば、EUの組織は構造が非常に複雑な上、主要機関である理事会、議会、委員会の長はすべてPresidentと呼ばれます。しかも民主主義の手続きに則って選挙で選ばれるのではなく、いわゆる談合政治によって決ります。委員会のPresidentにユンカー氏が選ばれたとき、イギリスはユンカー氏に反対し、その決め方も反民主主義だと猛反対しました。しかし、その意見は通りませんでした。しかもEUは実質的に談合で組織の長を決める一方、様々な規則を作り(例えばEU内で流通するバナナのサイズ・品質も規定)、イギリスを含めEUの全加盟国に課してきます。つまり、イギリスにとってEUは、やはりイギリスの主権を侵害する組織であり、しかも非常に反民主主義的なのです。こうしたEUの体制も、ブレグジットの大きな一因です。イギリスの政治家は、口ではEU残留を訴えていても、本質的にはユーロスケプティシズム(EU懐疑派)が多いといわれているのです。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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