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トランプ氏の選挙モデルは日本のネット選挙に応用できるか?

清原 聖子 清原 聖子 明治大学 情報コミュニケーション学部 教授

反トランプだったはずの主要メディアがトランプを生み出した!?

 トランプ陣営は最初からツィッターなどソーシャルメディアをコミュニケーション戦略の中核に位置づけていましたが、それが選挙にプラスに働くのかどうか、予備選挙の段階では疑問視する声もありました。しかし、ソーシャルメディアに頼る必要があったと思います。既存の主要メディアの多くが反トランプだったからです。通常、共和党を支持する保守派のテレビ局であるFOXニュースですら、反トランプでした。主要メディアを味方につけて選挙戦を戦えないトランプ陣営は、ソーシャルメディアを通して支持者たちにメッセージを発信していきます。しかもその内容はインフォーマルなもので、いわば、自分のファンクラブとのコミュニケーションのようなものでした。

 しかし、ここで興味深い現象が起こり始めます。過激で共感を呼ぶトランプ氏のメッセージに主要メディアが関心を寄せたのです。最初は面白おかしく取上げられていたトランプ氏の暴言やサイトの炎上話も、ニュースのトップバリューになっていきました。メディアを味方につけることができず、ツィッターによるファンクラブとのコミュニケーションのようだった内容が、主要メディアに取上げられて多くの有権者に伝わり、話題が膨らむサイクルになっていったのです。日本では想像しがたいことですが、アメリカのニュース番組では、キャスターたちが端末を持っていて、トランプ氏のツィートがあると、別のニュース中でも「いま、トランプ氏がこんなことを言っている」と番組中にどんどん紹介していきます。ツィッターがトランプ氏をメディアに取上げさせ、メディアに取上げられるからトランプ氏はどんどんツィートをする、というスパイラル現象が起きたのです。ついには、予備選挙でトランプ氏が負けたある日、CNNのキャスターは勝ったクルーズ氏についてコメントするのではなく、「今日はトランプ氏がツィートしていません」というコメントをするほどでした。サブメディアであったツィッターを取上げることで、主要メディアがトランプを生み出した、と言えるかもしれません。

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