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2016.09.28

国際法による説明なしに法の秩序に挑戦する中国に、厳しい南シナ海判決

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国際法と国際裁判を無視して孤立する中国

 ところが今回の南シナ海の紛争の判決では、中国の主張について「法的根拠がなく、国際法に違反する」と断定しています。理由は、中国は海洋法条約の当事国でありながらこの裁判を欠席し、自国の主張する「九段線」なるものについて、まったく法的に説明していないからです。中国は九段線を歴史的な権原であると主張していますが、歴史的権原というものは沿岸近海については概念としてはあっても、国際交渉の場で認められた例はありません。つまり、誰もがよくわからない概念である歴史的権原を根拠にしている九段線について、中国ははっきりとした概念が確定している国際法の言葉で説明しておく必要があったのです。九段線の中にある島の領有権を主張しているのか、九段線を排他的経済水域と主張しているのか、あるいはその海域の資源の独占を主張しているのか、あるいはそれとは別の歴史的権利なるものを主張しているのか。九段線なるものによって中国は何を実現しようとしているのか、国際社会はまったくわからないし、裁判所もわからない。それがわからないので、交渉命令すら出すことができず、あのような極めて確定的な判決を出さざるを得なかったのでしょう。もし、中国が説明義務を果たし、裁判所が中国の意図を理解して汲み上げることができていれば、中国にとってもフィリピンにとっても双方が受入れ得るような、実現可能な判決が出されていた可能性もあり得たのです。

 国際法は外交のコミュニケーションツールであると言いました。その国際法を無視し、国際社会の理解を得る機会であった国際裁判を欠席し、一方的に九段線や核心的利益を主張する中国の姿は、国際社会とのコミュニケーションを拒否しているかのようで、非常に危なく見えます。中国の海洋覇権の主張と海軍力の拡大が、九段線や南シナ海における埋立の強行というあからさまな法秩序への挑戦と結びつくのであれば、それは法を無視した力の政策のごり押しとして沿岸諸国のみならず国際社会全体に大きな不安をあたえることになります。第2次世界大戦以降、現代国際法が急激に発展してきている理由を、中国にはしっかり認識してもらいたいと考えます。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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