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環境リスクにどう向き合うか ―リスク・デモクラシーの提言―

寺田 良一 寺田 良一 明治大学 名誉教授(元文学部教授)(2023年3月退任)

「問題構築」の重要性

寺田良一教授 私の専門である環境社会学では、環境リスクや環境被害、それに伴う環境運動・NPO論等を研究の対象としている。欧米の環境運動・NPOの調査を始めた80年代、社会的サポートを受け、市民権を得て大規模に展開している欧米の環境運動の姿に大きな驚きがあった。それ以上に、日本ではまだほとんど取り組まれていなかったダイオキシンやアスベスト、原発がはらむ、潜在的なリスクに対して先んじて対応していくという姿勢に目を見張ったものである。リスクを放置し、問題が顕在化しないと対応しない日本とは大きな違いを感じたのである。
 現在、環境を巡る論議の中で、地球温暖化や自然破壊等の問題は緊急課題としてすっかり市民権を得ているといえるだろう。しかし、遺伝子組み換えや環境ホルモンのように、まだ評価が定まっていない問題も数多くある。かつての水俣病のような産業公害の健康被害は、誰の目にもその深刻さが明らかだった。しかし昨今の環境問題は、より長期的・潜在的な「環境リスク」と呼ぶべきものが多くなっており、何が重要な環境問題かを市民が認識することは、むしろ難しくなってきたともいえる。
 そこで重要なのが「問題の構築」だ。社会学一般でいう「問題構築(社会構築主義)」とは、社会に問題が山積する中で、市民が納得するような問題の枠組みが提起され受け入れられて、初めて「社会問題」になるという考え方である。たとえば「セクハラ」は今日ではれっきとした社会問題であるが、「セクシャル・ハラスメント」として問題の枠組みが受け入れられる以前は、「低劣で不快な言動」でしかなかったのである。環境問題がより潜在的なリスク化している今日、市民や科学者、環境NPOなどの問題提起によって、どれがなぜ重大な問題なのかという科学的根拠や政策的優先順位を提起する必要が出てきているのである。

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