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日本にもエスノグラフィーの波が来る!?

藤田 結子 藤田 結子 明治大学 商学部 兼任講師

従来のマーケティングの限界を破る手法

 なぜ、エスノグラフィーがマーケティングに応用されるようになったのかといえば、従来のマーケティング手法である顧客調査や市場調査などでは、以前に比べて非常に細分化された消費者のライフスタイルや、女性の社会進出にともなって生じてきた新しいライフスタイルに対応し、本当に必要とされるニーズに応える商品を開発することが難しくなっているからです。例えば、従来の調査方法のひとつであるアンケート調査は、アンケートの設問を作ること自体、作る側の知識の範囲の中でしかできません。これでは、調査者が気づいていない、新しいライフスタイルを理解する方法としては有効ではありません。こうした限界に突き当たったとき、人々の生活の中に入り、その暮らしぶりを体験しながら観察や調査を行なうことで、消費者自身も意識していなかった習慣や“本音”を見出すエスノグラフィーが注目されたのです。

 『ハーバード・ビジネス・レビュー』で紹介されたエスノグラフィーの活用事例として、欧州屈指のビール会社のケースがあります。この会社はバーやパブでの売上げ減少に直面し、精力的に市場調査や競合他社分析を行ないましたが、原因はつかめませんでした。そこで、人類学者たちに原因究明を依頼しました。いまでいう産学連携です。彼らはエスノグラフィーの手法に則り、十数ヵ所のバーに毎日客として入り浸り、一切の仮説を立てずに、純粋にバーのオーナーやスタッフ、常連客を観察しました。その結果、このビール会社が力を入れていた販促グッズは使われていないこと(あるバーではゴミ扱いされていた)、ウエイトレスたちには商品知識がないこと、などの分析結果が出たのです。この結果を基に、画一の販促グッズをやめ、それぞれの店舗やオーナーのタイプに合わせてカスタマイズしたり、ウエイトレスたちを対象に自社商品を理解するための教室を開いたり、深夜まで働く場合にはタクシー・サービスの提供を行い、ウエイトレスたちを自社のファンにしていきました。その結果、このビール会社は売上げを回復させ、市場シェアを伸ばすことにも成功したのです。

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