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チャレンジすることで未来は拓ける ―レトリック批評の現在と現代若者論―

鈴木 健 鈴木 健 明治大学 情報コミュニケーション学部 教授

「説得のレトリック」から「共感のレトリック」へ

鈴木健教授 私は「コミュニケーション研究」の中でも、説得的な言語の研究であるスピーチ・コミュニケーションが専門領域です。2300年前に古代ギリシアの哲学者アリストテレスは「公の説得技法としてのレトリック」を唱えました。これは、レトリックは説得の道具である、という考え方です。前近代においては上位下達に基づく(上から目線の)意思決定が可能でした。偉い人の言うことにはみんなが従う世界です。そこでは説得の道具としてレトリックが有効であったでしょう。しかし、近代以降、自由に人々が自分の意見を主張することができる世界の拡大に伴い様々な利害・対立関係が生まれる中で、レトリックは必ずしも万能の説得の道具として機能しなくなりました。20世紀にアメリカの文芸評論家ケネス・バーグは、レトリックを「協調的行動を導き出すための象徴的手段としての言語の使用」であると定義しました。現在の安倍晋三総理が好例です。彼は初めて総理になったとき、1年ほどで退陣せざるを得ない窮地に追い込まれました。当時を回想して、自分がやりたいことと国民が望んでいることに食い違いがあったことを認めています。しかしながら、今、彼を支持する国民は決して少なくありません。ここで見えてくるのは、かつての安倍総理は「説得のレトリック」に留まっていましたが、今は協調的行動を導き出すためのレトリックである「共感のレトリック」へ転換しています。さらに付け加えれば、上から目線になりがちなエリートよりも、安倍総理のように挫折を経験し「やり直しの機会」(Second Chance)を掴んだ人が成功する確率が高いと言えるでしょう。

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