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2014.03.01

TPP交渉の行方を読み解く ―求められる国民一人ひとりの判断―

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関税撤廃は長期的視点が必要

 今後のシナリオであるが、TPP交渉が妥結できるかは五分五分と見ている。日本では、交渉が始まると妥結することが前提のように捉えられているが、TPPのような大国が参加する交渉で農産物の関税撤廃のような高度な自由化を進めようとすれば、それに伴う損失を被る者も増えることから、交渉をまとめるのが難しくなる。つまり、TPPへの高い期待と困難度は裏腹なのだ。私は日米が合意に至るのは至難の技で、TPPが空中分解する可能性は低くないと考えている。それを回避するには米国の譲歩が必要だろう。最も現実的と思われるのは、自由貿易実現のための関税撤廃を、長期的・段階的に行うというスキームだ。貿易の自由化は世界的な潮流であり、そのための関税撤廃も長期的には避けられない。しかしそれをドラスティックに断行すれば、軋轢や摩擦は避けられない。したがって、米国の譲歩を得た上で、長期的視点に立ち計画的に徐々に関税率を下げていくのが、私が考える妥当な着地点である。言うまでもなく、このシナリオ実現も容易なことではない。
 他方で、TPP交渉が最終的に妥結するという可能性もないわけではない。交渉が妥結し各国政府が協定に署名した後には、参加国での国会批准のために条文はすべて公開される。そのときこそ、TPPを巡る賛成派と反対派の主張の真偽を判断する好機となる。私が懸念しているのは、かつて国論を二分するまでに盛り上がったTPP論議が、ここへきて急速にしぼんでいることだ。TPPへの関心を持続し、公開される条文、すなわち合意の内容を国民一人ひとりが十分に吟味すべきである。TPPに関する私の社会への提言もそこにある。日本人は、政府が交渉して妥結した条約などを無批判に受け入れる傾向があるが、政治家や官僚による情報操作もあり、一定の批判精神を持つことが必要だろう。行政府は国民の負託を受けて交渉に臨むが、それを批准するかどうかを決めるのは民意を反映した国会、つまり国民なのだ。TPPが真に国益にかなうものかどうか、国民の熟慮の上の判断が求められている。我々研究者は、そうした判断の前提となる正しい情報を提供すべきだと思う。

※掲載内容は2014年3月時点の情報です。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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