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TPP交渉の行方を読み解く ―求められる国民一人ひとりの判断―

作山 巧 作山 巧 明治大学 農学部 教授

譲歩することは政治的失点につながる

 TPP交渉が妥結に至らないのは、米国と日本の主張がまったく噛み合わず、合意のめどが立っていないからである。自民党は「聖域なき関税撤廃を前提にする限りTPP交渉参加に反対」を公約に掲げ、それとの整合性を確保するために、日本は交渉参加時に守るべき“聖域”を農産物の重要5品目(米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖)と決めた。つまり、これら5品目の関税は維持するという主張である。対するアメリカは、それらの関税撤廃を要求しており、まったく譲歩する気配はない。日本は、自動車分野では米国に関税撤廃を求めつつも、米国の関税引き下げを最大限後ろ倒しにするという譲歩を見せたにもかかわらずだ。
 自分の経験では、日本は一旦交渉に入ればまとめようとして着地点を見出す努力を重ねるが、アメリカという国は強気で、経済大国である自分たちの主張が通るのは当然だと考えているところがある。かつて南北アメリカ大陸全体で自由貿易協定を結ぼうという動きがあったが、米国の強硬な姿勢で交渉が頓挫したこともある。また米国は11月に中間選挙を控え、自動車業界や農業団体からの圧力が強まり容易に譲歩できないという事情もある。日本も自民党が公約に掲げた以上、“聖域”の関税撤廃を受け入れるわけにはいかない。両国とも政治的失点を最小化するため、問題を先送りしているようにも見える。

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