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2014.03.01

TPP交渉の行方を読み解く ―求められる国民一人ひとりの判断―

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TPPの安全保障や戦略面での意義

 私は2010年12月から2013年3月の交渉参加決定まで、情報収集や交渉参加に向けた米国や東南アジアなどのTPP参加国との協議に従事した。ハイライトといえるのが2013年2月の安倍首相とオバマ大統領の会談である。会談後、安倍首相は「聖域なき関税撤廃が前提でないことが明確になった」と説明したが、これには裏がある。日本サイドは、「交渉に入る時点で関税撤廃を約束するわけでない」と解釈しているのに対し、米国サイドは、「交渉の中で関税撤廃を約束してもらう」という考えなのである。このように日米両国は、最初からお互いの解釈が異なることを分かっていたのだから、その後の交渉が難航するのはある意味で当然だ。他方で、安倍政権としてTPP交渉そのものに参加しないという選択肢はなかったと思う。なぜならTPPは単なる自由貿易の促進に留まらない意味を含んでいるからである。領土問題を巡って中国との緊張が高まる中で、TPPによって日米同盟を強化するという安全保障上のメリットがあるのだ。つまり、日本のTPP交渉参加は、経済的なメリットよりも、こうした安全保障面や、中国やEUを日本との自由貿易交渉に引き込むという戦略面からの政治的な判断なのである。
 米国の立場に立てば、日本が参加しなければ、米国にとってTPPに参加する意義は激減する。参加国を見ればわかるように、その経済規模や人口などからマーケットとして最も魅力的なのは日本である。世界第一位と第三位の経済規模を持つ米国と日本は、交渉参加国の中でも群を抜く存在だ。米国にとっては、小国のみから成る当初のTPPに参加する経済的なメリットはなかった。しかし、経済大国である自国の参加によって非参加国の疎外感を煽り、日本の参加を引き出すことによって、TPPの経済的な魅力を高めるとともに、先に交渉参加している優位性を梃子に日本の参加に様々な条件を付け、日本に農産品などの自由化を迫るのが狙いだ。このように、TPPは国益を巡って権謀術数が渦巻く高度に戦略的な交渉であり、特定分野の損得に目を奪われるとその本質が見えてこない。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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