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2018.04.11

正規・非正規の格差是正と「同一労働同一賃金」

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「同一労働同一賃金」は誤解を招きかねない

小西 康之 こうした裁判例が続くと、企業側では、無期雇用のすべての人の労働条件を、有期雇用の人と比較しても不合理と判断されないようなものに変えていくかもしれません。一方で、安倍首相は「同一労働同一賃金」を掲げ、働き方改革関連法案の成立を目指しています。この法案では、無期雇用と有期雇用との労働条件の相違について、企業側が説明することが求められるようになると思われます。しかし、各企業の現在の賃金体系においては、例えば、手当は、その名称通りの意味の手当ばかりではなく、様々な経緯のなかで決まったものや、支給額ありきでつくられた手当もあるのが実状です。これらについてもひとつひとつ説明しなければならず、企業側にとってはハードルが高い取組みになるといえます。そうした意味では、企業側に改革を求めるような法案です。

 また、 「同一労働同一賃金」という言い方は、ミスリードを誘うものともいえます。この法案は、同一の仕事をしていたらいつでも必ず同一の賃金を支払わなければならないという制度ではありません。あくまでも、正規雇用と非正規雇用の間で不合理な格差があってはならないという内容であり、その点、労契法20条の延長にあるものともいえます。すると、これまでの裁判例からもわかるように、不合理性の判断は難しく、裁判所の判断によっては有期雇用労働者等の訴えが棄却される可能性もあります。実際、待遇差の不合理性は事例的な判断、つまり、ケースバイケースにならざるを得ません。ある会社で住居手当の支給の相違が不合理と判断されたからといって、すべての会社での住居手当の支給の相違がいつでも不合理となるわけではないのです。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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