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ブラック企業は、人を人間と見ていないことがわかっていない

明治大学 商学部 教授 出見世 信之

命令は、受け入れられて成立する

 また、日本の高度成長期の体験を、企業の成功モデルのように継承していることも大きな問題です。その時代は、「24時間働けますか」といわれたり、「企業戦士」という言葉があった時代です。当時の社員たちは、それこそガムシャラに働き、日本の高度成長を支えました。その結果、社会は豊かになり、企業は成長し、自分の給与も増えていったのです。彼らにとって、長時間働くこと、頑張って働くことは良いことであり、高い評価を受けることでした。しかし、時代は変わりました。現在は、頑張れば、それに見合う恩恵が得られた高度成長時代とは異なっています。また、当時は、男は仕事、女は家庭、という性的役割分担が明確にあり、妻に支えられたことで、夫は、それこそ24時間働けたのです。しかし、企業の利益が増えない中で、正社員であっても夫の収入は以前のように年々伸びることがなくなり、妻も仕事に就いて家計を補わざるを得ないこともあります。また、現在は、男女共同参画が求められていますが、これは女性も仕事に夢や目標をもつようになったこととも関わっています。高度成長時の生活モデルはもう成り立たなくなっているのです。こうした認識が欠けている企業や上司は、社員や部下に長時間労働を強いても、それが酷いことであるという意識がなく、結果、人を尊厳のある人間ではなく、将棋の駒のように見なすことになってしまうのです。

 ここには、さらに大きな認識の欠如があります。実は、高度成長期の日本的経営はボトムアップ型といわれてきました。経営陣は現場の声を吸い上げながら、経営の判断を行う仕組みがあったのです。ところが、バブル崩壊のあたりから、アメリカ型の強いリーダーシップによるトップダウンのビジネススタイルが良いとされはじめました。確かに、危機を乗り越えるにはトップダウンが有効であることもあるでしょう。しかし、そのアメリカでは、すでに20世紀半ばに、近代経営学の父と呼ばれるチェスター・バーナードにより、「権限受容説」という理論が提唱されています。これは、命令というのは、上司から部下に伝えられることで成り立つのではなく、それを部下が受け入れることで初めて成り立つという理論です。つまり、命令とは上司から部下への一方的なものではなく、部下が納得し、受容することが必要だというのです。すると、上司が自分の成功体験をもとにした“自分の常識”による命令をしていると、実は部下は、その常識を非常識と考え、上司の命令に納得も、受け入れることもできず、それは、命令にならなくなります。それでは、仕事の効率が上がることも、良い仕事ができることもないでしょう。

 では、どうすれば命令が受け入れられるのか。それには、コミュニケーションが重要だとバーナードは言います。人間は一人ひとり、いろんな考え方をもっているし、見ているだけではわからない事情がある場合もあります。上司は、部下と絶えずコミュニケーションを取り、その人を理解しながら、納得できるように命令を出すことが必要なのです。最初に、ブラック企業とは、人を人間として見ていない企業だと言いました。そこでは、コミュニケーションが欠如しています。一般的には、人は将棋の駒とコミュニケーションを取りません。将棋の駒は、黙っていても思ったように動かせますから。しかし、人間は違います。部下には部下の考え方があります。現場には現場の事情があります。組織は多様な人間によって構成されているのです。それを理解し、多様な考えが活かされる仕組みづくりをするには、コミュニケーションが必要なのです。

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