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スポーツビジネスの功罪を考えると、社会の未来が見える

釜崎 太 釜崎 太 明治大学 法学部 教授

開幕前は様々な問題点が指摘され、無事に運営されるのか危ぶむ声もあった今年のリオ・オリンピックですが、アスリートたちの躍動に大いに盛り上がり、スポーツがもつ華やかなエネルギーをあらためて感じさせました。また、最近はスポーツビジネスに対する注目度も高く、スポーツを取り巻く環境は非常に良好であるように思われます。しかし、本当にスポーツは良い方向に向かっているのか、2020年東京オリンピックに向けて、冷静に考えてみましょう。

スポーツビジネスの成功によって拡がるファン層

釜崎 太 最近、日本でもスポーツビジネスに対する注目度が高まっています。しかし、スポーツがビジネスコンテンツとして注目されるようになったのは、ごく最近のことです。スポーツのビジネス化を促したひとつの契機に放映権料の高騰がありました。しかし現在では、放映権利料に依存する経営の危険が知られています。例えば、放映権収入を背景に世界のトップ選手を集めていたイタリアのセリエAは、他国のリーグが代表クラスの選手を買い戻しはじめると(国内不況や八百長スキャンダルも重なり)、放映権収入を下落させ、多くのクラブが経営危機に陥りました。「放映権収入」から「入場料収入」へ、が現在のスポーツビジネスの流れと言えます。

 日本のプロ野球も、人気球団の放映権料が下落するなかで、各球団は集客力を上げるための改革に取組んでいます。観客数を増やすためには、新規顧客層の開拓が必要です。「カープ女子」「オリ姫」「ハマっ娘」といったプロモーションに見られるように、女性、子ども、家族連れなどが楽しめる環境を整え、ファン層を広げていく必要があるのです。

 例えば、スタジアムビジネスではショッピング。女性や家族連れが求めやすい商品を用意することは当然としても、「デパート」型ではなく「モール」型、つまり雑多なお店が混在している場所で楽しみながらショッピングできるようにすることが重要です。区画された場所に特定の売店を置くのではなく、コンコースをもつスタジアムがひとつのモデルになるでしょう。将来的には(各球団がスタジアムの経営権を獲得すれば)、試合を観ている間にも買物ができるように、専用アプリ(スマートフォン)からの注文で座席まで飲食物をデリバリーしてもらえるようになるかもしれません。

 また、多くのスタジアムで実施されているイベントのひとつに、ユニフォームの無料配布があります。ユニフォームの着用は、スタンドの一体感を高めると同時に、チームへのアイデンティティを生み出します。先日、野球とは無縁のテーマパークで、各球団の限定ユニフォームを着た3人の若い女性グループを目にしました。プロ野球のユニフォームが女性のファッションになるなど、数年前では考えられなかったことです。例えば、2012年にプロ野球に参入したDeNAの球団社長は、「赤字にも関わらず、球団経営に参入したメリットは何か」という問いに、「DeNAというロゴの読み方が認知された」と答えています。つまり、記号が商品になる現代の消費社会では、記号(他の商品や企業との差異)の認知によってブランド価値を手に入れることができます。「ヤジが飛び交う汚い球場」というイメージが「さわやかなボールパーク」へと変化することで、ファン層の拡大はもちろんのこと、企業が良いブランドイメージを獲得するチャンスも拡がっているのです。

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