2024.03.21
- 2016年7月8日
- ビジネス
タックス・ヘイブンの情報秘匿の殻を破ったパナマ文書
下村 英紀 明治大学 専門職大学院グローバル・ビジネス研究科 教授(退任)税負担の不当回避を許さない
タックス・ヘイブンを利用した租税回避の実例
外国子会社合算課税の事例 タックス・ヘイブンの問題は、マネーロンダリングのような行為は論外であるとしても、タックス・ヘイブンに実体のないペーパーカンパニーを設立して取引を介在させることによって、また正当なビジネス活動であっても情報のブラックボックスを悪用して、税負担を不当に軽減・回避し、結果として課税を免れようとすることにあるのです。
もちろん、当局も対策を立てています。それが、日本の場合、38年前の1978年にすでに導入されている「外国子会社合算税制」、いわゆる「タックス・ヘイブン対策税制」です。その内容は、日本では通常、税率が20%未満の国をタックス・ヘイブンとみなしていますが、そのような国に設立された実体のない子会社等の所得に相当する金額については、国内の親会社の所得とみなし、それを合算して課税する制度です。例えば、日本の親会社が税率0%のタックス・ヘイブンに設立した実体のないペーパーカンパニー子会社に、何百億円もの価値がある技術の特許権を現物出資し、この子会社がこの技術によるロイヤリティで利益を上げた場合、この子会社にはタックス・ヘイブンでは課税がなく、利益は丸々どの国からも課税されない所得となります。しかし、子会社の利益が親会社に合算されれば、日本の税率によって日本で課税することができるのです。こうした制度は日本だけでなく、世界各国で類似した制度が取り入れられています。
しかし、税率が20%未満とはいえ、例えば香港には16%、シンガポールには17%の法人実効税率があります。日本の会社がこれらの国でビジネスから生じた所得については、これらの国で課税され、日本でも課税されると二重課税になってしまうため、これを解消するために、外国でかかった税を日本の税金から引く「外国税額控除」という制度があります。この制度を円滑に運用するために、税務当局間の納税者情報(銀行機密を含む)の交換を行う「租税条約」があります。例えば、日本の納税者が、日本と租税条約を結んでいるA国でビジネスをしている場合に、どういう会社とどのような事業取引や金融取引をしているか、どれくらい所得が発生しているかなど、日本からA国に照会すると、教えてもらえるのです。こうした条約を、2016年5月1日現在、日本は世界96ヵ国・地域と結んでいます。
また、G20サミットで、各国税務当局間で非居住者の口座情報を自動的に交換する制度の合意がなされました。例えば、外国のB国に住んでいる人が日本の金融機関に口座をもっている場合、B国の○○という納税者番号をもっている○○さんが、日本の金融機関に口座をもち、口座の残高がどれくらいで、利子や配当をどれくらい受け取っているか、ということを日本の金融機関が国税庁を通じて、B国の税務当局に自動的に知らせるのです。この制度は2017年から開始されますが、今年(2016年)5月に仙台で行われたG7財務大臣・中央銀行総裁会議でも「“非居住者の金融口座情報の自動的交換”など、税の透明性を高める取組みの重要性を確認」という発表が麻生大臣からなされました。世界各国が協力して、租税回避に対処する姿勢が打ち出されているのです。
上記の「タックス・ヘイブン対策税制」には、事業者からの申告がなければ適用が難しいという弱点がありました。タックス・ヘイブンの情報はブラックボックスになっているため、税務当局も追及できなかったからです。しかし、こうした情報交換が機能すれば、二重課税を回避するだけではなく、タックス・ヘイブンでの所得を申告していなかった事業者を明らかにし、「タックス・ヘイブン対策税制」を適用することが期待できるのです。